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至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
三十五 〜采配を振るう者〜
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発した。
「あ、あの……太守様」
「何だ?」
 田豊が、馬を寄せてきた。
 文官と言えども、最低限の馬術を身につけているのは流石と言うべきか。
「良かったのですか、本当に僕で?」
「無論だ」
「ですが、太守様には、郭嘉様と程立様がいらっしゃいます」
「確かに、二人は私の軍師。だが、魏郡の建て直しも急務故、残って貰った」
「それはわかりますが、お二人がよく承知なさいましたね?」
「……それは、問題ない。よく言い聞かせてある」
「そう、ですか……」
 ふう、と息を吐く田豊。
「自信がないか?」
「……正直に言うと、そうです。僕は学問として兵法を学んできましたが、実践するのは初めてです」
「だが、経験を積まねば、何時までもそのままだぞ?」
「はい。ですが、相手が山賊とは言え味方は劣勢。その状態で、僕の策が破れたりでもしたら、と」
「……………」
「それに、そうなれば太守様はますます、信を失ってしまいます。折角、この魏郡にいらしたばかりだというのに」
 そう言う事か。
「田豊、言った筈だ。しくじりを恐れるな、と」
「ですが……」
「案ずるより産むが易し、まずはやってみる事だ。それ以上躊躇する事は許さぬ、軍師の迷いは全軍の士気に関わる」
「……わかりました。精一杯、頑張ります」
 パン、と田豊は頬を手のひらで叩いた。
「お兄ちゃん! 向こうに何か見えるのだ」
 鈴々が、そこに駆け込んできた。
 確かに、少し離れた場所から砂塵が上がっているようだ。
 どれ、確かめてみるか。
 双眼鏡を取り出すと、田豊は目を丸くした。
「太守様、それは?」
「双眼鏡という、舶来の品だ」
 いやに輝きを放つ兵の一団が、我が軍と同じ方角へと進軍しているようだ。
 ……それにしても、金色の鎧とは、お世辞にもいい趣味とは言えないな。
「田豊、見てみるか?」
「宜しいのですか?」
「うむ。見たものの正体、存じているならば教えよ」
「は、はい。では、失礼致します」
 恐る恐る、田豊は双眼鏡を受け取る。
「こ、これは……。遠くが、はっきりと見えます!」
「にゃはは、驚いているのだ」
 鈴々も、最初は驚いていたのだがな。
「どうだ?」
「……あれは、どうやら袁紹軍のようです」
「袁紹軍? 確かか」
「はい。黄金色の鎧を使っているのは、大陸広しと言えども袁家ぐらいのものです。尤も、袁紹軍と同一の装いを嫌って、袁術軍は銀一色とか」
「どっちも趣味が悪いのだ」
「ふっ、鈴々の申す通りだ。戦は見た目でするものではないからな」
 だが、袁紹が既に冀州にいるとは、想定外だ。
 先日の様子では、まるでそのような素振りもなかったのだが。
「にゃ? お兄ちゃん、何か心配事でもあるのか?」
 鈴々が、私を見上げてきた。

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