第1部 甦る英雄の影
第1章 人狼部隊
焔に踊るモノ
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?」
「馬鹿ですかあなたは……正規軍の指揮官クラスはランシール卒に決まっているでしょうに」
「その通り、私はランシールに在籍していた。同期はみんな軍に召集されただろうが、誰がどこにいるかは知らない。貴族の奴らばかりで私は浮いていたからな」
「隊長はクロウ少将のご息女では? 養子とは言え、ラムゼイ・クロウの名は大きいはずでしょう」
「表向きはそうでも、実質的に周りから拒絶されていたのは察していた。私も奴らと馴れ合うつもりは無かったが」
ランシールでの貴族階級における平民への差別意識は凄まじいものだ。アンリはそれほど気にしていなかったが、平民出身というだけで血筋が誇りの生徒からすれば目障りでしかない。さらに彼女はダルクス人の要素を持っている。旧家の人間はそれだけで他人を嫌うこともあるが、まずアンリがそれを真に受けていなかったことは確かだ。
保身に走った士官たちを彼女は「どうでもいい」と切り捨て、無関心を貫いた。自分を蔑む周囲の存在も同じ要領で無視したに違いないと二人は察した。
「アンタも面倒な奴らに囲まれたもんだぜ……」
「?」
ギュスパーの呟きにも、アンリは不思議そうに首を傾げた。そもそも、面倒な奴らに囲まれた、という認識すらなかったらしい。
ガリア方面侵攻部隊総司令部、ギルランダイオ要塞の一室に集まった二人の軍人が、ヨーロッパの地図を机に広げて話し合っている。一人は金髪碧眼で色白、女と見紛う美貌と金と灰色を基調とした派手な軍服を身に付けた青年だ。その隣には赤い将校の礼服を着た痩身の男がいる。
「まずいですね。ファウゼン攻略の主力部隊が壊滅、おまけにヘルヴォルまで奪われたとあっては我が方に不利だ」
「マルベリーの海軍工厰の防衛隊を増やす必要があるやもしれませんね……」
「その必要はない」
室内に響く声に二人は振り返る。少し段になった部分に置かれた玉座に腰かけた女性の一喝で空気が凍る。
漆黒の衣に深紅のマント、瞳は冷えきったサファイアブルー、長い髪は皇帝一族特有のプラチナブロンド、無機質な貌は東ヨーロッパ帝国第四皇女アナスタシア・エルジェベート・フォン・レギンレイヴだ。アナスタシアは玉座に座したまま続ける。
「ファウゼンが取れずとも構わぬ……鉱山だけが勝利の要因となるわけでもなし。第二陣を南部へ向かわせよ」
「アナスタシア殿下、しかし……」
「身を弁えよ。そなたの計画した攻略作戦で失敗したのだぞ」
青年は食って掛かるものの、無情にも遮られた。
「アルベリヒ、そなたはガッセナール城に二陣を移動させ、速やかにメルフェアを占領せよ。ランドグリーズを兵糧攻めとし、その隙にスメイク・アインドンの半数をベルファスト攻略作戦に加える
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