第1部 甦る英雄の影
第1章 人狼部隊
焔に踊るモノ
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売りとは言っても、何を扱っているのか考えるとアンリは背筋に寒気が走った。
「おー、悪い悪い。頼まれてたモン探してたら手間取っちまった」
派手な柄のワイシャツとブーツが目を引くギュスパーが現れ、酒瓶満載の木箱を担いでアンリの隣に座った。金のネックレスも趣味が悪く、質素な二人とは対照的だ。
「ありましたか。やはり焼き肉にはこれですよ、これ」
「そこだきゃあはお前さんと同意見だぜ。隊長さん、アンタ酒はイケる口かい?」
ギュスパーがアンリに見せた瓶は、白濁した液体に満たされていた。ラベルはなく、薄緑のガラスに映った彼女の顔は化粧っ気も女っ気もなかった。
「それなりには。こんな酒は見たことがないんだが……牛乳ではないのか?」
ヨーロッパで酒と言えば麦芽酒か葡萄酒だ。透き通っていない酒など存在しない。不思議そうにするアンリの前でギュスパーは栓を抜き、コップに注いでいく。匂いもやはり独特で、ヨーロッパのそれとは違ったまろやかさがあった。
「さて、こちらも食べ頃ですね。焼くのは私がしますから、お二人はじゃんじゃん消化して下さい」
「よしきた、任せとけ」
「では遠慮なく」
真っ赤なタレに漬け込まれた肉を一つつまみ、口に運ぶ。歯応えのある食感とタレの旨みが調和し、適度な香辛料の刺激が味を引き締める。
「美味い……」
「だろ? でもってこのヤギ酒がたまらねぇんだよ」
「あなたに何度殺されかけたか……ロマノでの一件は忘れていませんよ」
「そんならあんなクソ薬捨てりゃいいんだよ。つうか
、俺は賞金稼ぎだぞ!? 南欧一の賞金首を狙わねぇわきゃねぇっつーの」
肉の大半が三人の胃袋に消えた頃、エルンストとギュスパーは酔い潰れ愚痴りあっていた。へべれけの男二人は南欧では麻薬カルテルの大物として賞金をかけられていた死の天使と、それを追うフリーの賞金稼ぎである。どちらも名の知れた人物で、かれこれ十年近く鼬ごっこを続けてきたらしい。
南欧は帝国南部の乾燥した高原地帯に近く、その土地では貧しい農民が特殊な植物を栽培、加工してヨーロッパへ密輸している。エルンストが取り仕切るカルナヴァル・ファミリアは南欧から帝国、連邦、ガリアの各地に散らばる商人へ加工された粉末状の薬を卸しているのだ。
「本当に、クロウ少将も人が悪い……よりによってギュスパー・ヨードルを捕まえるなんて……」
「そいつぁ俺の台詞だよチクショウ……なぁんでテメェと肩並べてんだ俺ぁ?」
(腐れ縁とはこの事か)
一人で二本丸々空けたアンリは素面で黙々と最後の一本をコップに注いでいく。すると、ギュスパーが微かに首を動かして
「隊長さんは前は正規軍にいたんだよな? その前はどうだったんだぁ
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