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至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
三十四 〜ギョウ入り〜
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を賭けて、互いにぶつかり合う。だが、文官とて戦場が異なるだけで、死を賭して物事に当たらねばならぬ事もあろう。無論、命を粗末にしろと申すのではない、気構えの問題だ」
「気構え……」
 田豊は、宙を睨み付ける。
「よいか。私は太守など、務めた事はない。勝手はわからぬが、ただ一つ。徒に庶人を苦しめる真似だけはせぬ。その為であれば、力押しも辞さぬ、汚い手を選ぶ事もあろう。だが、それは全て覚悟あっての事だ」
「土方様。僕は……」
「お前のその剛直さ、才気は頼もしい限りだ。だが、覚悟が伴わぬ者は、共に歩む事は認めぬぞ?」
「……僕に、出来るでしょうか?」
「まだまだ、お前は若いのだ。失敗を恐れず、物事に当たってみよ」
 沈んでいた田豊の顔が、次第に明るくなっていく。
「それに、私の許には、郭嘉と程立という、二人の優れた軍師もいる。関羽、張飛、趙雲、徐晃という、無双の武人も揃っている。しくじりは、皆で補い合えば良い」
「……土方様。改めて、お願い申し上げます」
「うむ」
「僕を、この田豊を、あなた様の許で使っていただけないでしょうか? その為の覚悟を見せろと言われるなら、全力を尽くす事をお約束します」
 田豊の眼に、もう迷いはなかった。
「良かろう。存分に、励め」
「ははっ!」
「但し。郭図らの事については、お前の言葉のみを鵜呑みには出来ぬ。事実を調べた上で、判断を下す。それで良いな?」
「はいっ!……良かったです、土方様が、一歩踏み止まって下さる御方で」
「お前の事を信じぬ訳ではない。ただ、軽挙妄動は慎むべき、それだけの事だ」
 見所のある若者だ、その性根をそのままに、大きく育ててやりたいところだ。
 それが、間違いなく庶人の為になる、私の成すべき事であろう。


 その夜。
 大量の書簡に埋もれながら、私は風、稟と共に執務室にあった。
 田豊より聞き取った話を元に、事実関係を調べる必要があるからだ。
「これは、相当に根が深いですね」
「むー。前の太守さんが、かなり評判の良くない方とは聞いていましたが」
 それを裏付ける書類は、ほぼそのまま残っていた。
 当人がもし存命していれば、間違いなく既に処分されている類のものまで。
 ……よもや、それを残したままあの世へ行くなどとは、想像だにしていなかったのだろう。
「だが、これではせいぜい、前太守の一族に対し、罪を問う事しか出来ぬな」
「はい。他の文官が関わっていたであろう不正は、この中には見当たりませんね」
「まぁ、あの方達もお馬鹿さんではないですからねー。自分が不利になる証拠は、隠すのが当然かとー」
「それに、一度には大掃除は無理だな。そんな事をすれば、この魏郡そのものが機能しなくなる」
 文官と言えども、皆が郭図らと結託しているとは限らぬ。
 だが、
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