第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
三十四 〜ギョウ入り〜
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しようがありませんでした」
私腹を肥やす上に、配下の器量すら見抜けぬとは。
相当の愚物であったのであろう。
「一つ、解せぬ事がある」
「何でしょうか?」
「お前が若い故に、前太守に侮られたのは、そ奴の器量からすればやむを得まい」
「……はい」
「だが、此処には郭図や審配らがいたのであろう? 彼らに諮り、太守に献策すれば、如何に狭量な輩とは申せ、聞かざるを得まい?」
田豊は、頭を振る。
「それは、無理です」
「何故だ?」
「郭図様達から、僕は嫌われているからです」
「……理由は? お前が若いからか?」
「それもあります。……ですが、一番の理由は別にあります」
「それは?」
「……郭図様達は、太守様の為されようを諫めるどころか、むしろ進んで加担なさいました。城に出入りする商人も、付け届けの多寡で決めたり」
「…………」
「僕は、庶人の出。だから、庶人の苦しみが増すばかりの政治はお止め下さいと、何度も申し上げたんです。……勿論、聞き入れてはいただけず、却って煙たがられるばかりでしたが」
「……ふむ」
「それに、郭図様達の献策に誤りや不足があると、良かれと思ってお教えしていたのですが……」
私の知識が通じるならば、袁紹軍の双璧、と呼ばれたのは田豊と沮授。
郭図らは、参謀としての地位こそ得ていたが、互いを陥れるような、私利私欲に走る献策ばかりをしていたと聞く。
それが、強勢を誇ったはずの袁家が、敢えなく滅亡する原因となった。
……この世界でも、性格は無論だが、智謀にも天地の開きがあるのだろう。
この剛直さは好ましいが、今の官吏の中では、疎まれて当然であろうな。
「田豊」
「はい」
「この有様、前太守と、郭図らの悪政が全て。そう、言いたいのだな?」
「…………」
流石に、答えぬか。
だが、この場合の沈黙は、肯定と同じ事。
「それで、私をこの場所に連れてきたのであろう?」
「……申し訳ありません」
「まぁ、よい。市井の実態を見ておくのも務め。だが、一つだけ申しておくぞ」
「何でしょうか」
「お前の上役が、お前の話に耳を傾けようとせぬ、それは確かに連中が愚かである証拠だ。だが、このギョウの庶人がこのように塗炭の苦しみに喘いでいるのは、お前にも責任の一端はある」
途端に、田豊の顔が強張る。
「まず、お前も官吏の端くれ。お前が生計を立てられるのは庶人が税を納めるからだ。違うか?」
「……いえ」
「ならば、その庶人を守る為、苦しませぬ為に成すべき事を成さねばならぬ筈だ。繰り返し献策を、と言うが、内心の何処かで、受け入れて貰えぬ事への諦めがあったのではないか?」
「!!」
「それに、お前には覚悟が足りぬ、私にはそう思えるのだ」
「覚悟、ですか」
「そうだ。武人ならば、己の生死
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