第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
三十四 〜ギョウ入り〜
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「それから、疾風」
「はい」
「時間をかけても構わぬ。その眼で、市井の様子を見て、必要とあれば調査を頼む」
「……文官らの報告や言葉は、信用に足らぬと思し召しですな?」
「そうだ。あの態度では、いろいろと隠し事をしていよう。それを、炙り出さねばなるまい」
「お任せ下さい。では、直ちに」
それぞれに、皆が与えた任務へと向かった。
……さて、私は少しばかり、市中を歩いてみる事とするか。
城中に参るのは、今少し後でも良かろう。
「あの……」
と、文官の出で立ちをした、少年がおずおずと話しかけてきた。
……どことなく、総司を彷彿とさせる風貌だな。
無論、文官らしく、剣は明らかに不得手のようだが。
「何か?」
「はい。太守様、ですよね?」
「そうだ。新しく太守を仰せつかった、土方だ」
「僕、田豊、字を元皓と言います。宜しくお願いします」
……なるほど、先ほどの文官どもには混じっていなかったが、此処にいたのか。
恐らくは、彼の田豊と目の前の少年は、同一人物であろう。
「文官は全て、城中かと思ったが。此処で、何をしている?」
「はい。どうしても、太守様とお話させていただきたくて。ご無礼をお許し下さい」
「いや、構わん。私も、いろいろと聞きたい事がある」
私の言葉に、田豊は安堵の表情を見せる。
「では、少し市中を案内してくれぬか?」
「はい、わかりました」
表通りから一歩入ると、寂れた町並みが広がっていた。
皆、立ち上がる気力さえないのか、力なく地面にへたり込んでいる。
「……想像以上だな」
「黄巾党の争乱に飢饉と続きましたから。……ただ」
「どうした?」
田豊は、顔を曇らせる。
「もともとの冀州は、豊かな土地なんです。黄河が運んでくる土壌は肥沃で、作物もよく育ちますから」
「だが、私は并州や幽州も見て参った。どちらも飢饉には苦しんでいるが、ここまで庶人が無気力ではなかったようだが」
「当然だと思います。并州は丁原様から董卓様、幽州は公孫賛様が治めておいでです」
「……此処、冀州刺史は韓馥殿だが。治政が行き届かぬ、という事か?」
「そうです。韓馥様は、人柄はともかく、何事にも弱気です。前の太守様が好き勝手をしていた事も、対処のしようがあった筈なのに、何も手を打っては下さいませんでした」
「そう言えば、前任の太守は姿が見えぬが」
「黄巾党が迫ってきた時に、皆さんが止めるのも聞かずに、打って出たんです。……韓馥様の援軍を待って、挟撃するように勧めたのですが」
「多数に無勢、敢えなく討ち取られた……そうなのだな?」
田豊は、頷いた。
「僕は何度も止めたんです。……でも、僕はまだご覧の通りの若輩者。『貴様ごとき小僧に戦の機微がわかるか!』と一喝されてしまっては、お止め
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