第一部
第三章 〜洛陽篇〜
三十三 〜出立前夜〜
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る身。そして、陛下より賜りし役は、同格にござる」
「そうですわね。ですが、それがどうかしまして?」
「……拙者は、栄華は求めておりませぬ。また、陛下の思し召しを無にするような真似も、するつもりはありませぬ」
「……どういう事ですの?」
袁紹の声に、苛立ちが混じり始めた。
だが、私は構わず続ける。
「拙者には、拙者の事を信じ、付き従う者がおります。その者達は、金で歓心を得たのではありませぬ。人同士が想いをぶつけ合い、そして自らそれを実践して得た、信頼にござる」
「…………」
「確かに、貴殿には名家という権威があり、財もござる。一方、拙者にはそのような物はござらぬが、その代わり、掛け替えのない仲間と、家族がござる。……それを、如何に金銀財宝を積まれようとも、売る気はござらぬ」
「……な、何ですって? これだけの財を見ても、何とも思わないのですか、あなたは?」
わなわなと、袁紹は身体を震わせる。
「恐れながら、相手を間違えましたな。貴殿とは、生きる道が違うようにござる」
「ど、どういう意味ですの?」
私は、立ち上がった。
もはや、礼を取る相手に非ず。
「貴殿の目指すものに、庶人や麾下の事が、一言も含まれておりませぬ。拙者とは、相容れぬ……それだけの事にござる」
「キーッ! わ、私に対してなんたる無礼な!」
「無礼は貴殿にござろう? 仮にも拙者は武人の端くれ。そのような者に対し、貴殿は何を言われたか。その胸に、手を当ててよくお考えあれ」
そう言い捨てると、私は袁紹に一礼する。
「では、これにて御免」
「お、お待ちなさい! 猪々子さん、止めなさい!」
「あ〜。兄ちゃん、姫相手にちょっと言い過ぎだぜ?」
退出しようとした私の行く手に、文醜が立ちはだかった。
「そこを退かれよ」
「出来ないね。姫の命令なんでな」
「……すみません。麗羽様のご命令ですので」
顔良も、その隣に立つ。
「これが、仮にも名家を自負する御方の所業でござるか?」
「お、お黙りなさい! 猪々子さん、この無礼な男に、思い知らせてやりなさい!」
「へいへいっと。そういう訳だ、悪く思わないでくれよ、兄ちゃん?」
文醜は、背の大剣を抜いた。
続いて、顔良もまた、大きな鉄槌を手にする。
「……剣を手にする意味、おわかりでござるな?」
「あたいらは武官だぜ?」
「土方様、麗羽様に無礼を詫びて下さい」
やむを得ぬな。
私も、兼定の鯉口を切った。
相手は、あの顔良に文醜。
……やや、分が悪いやも知れぬな。
だが、むざむざとやられはせぬ。
その時。
バサリ、と天井から何かが落ちてきた。
それは、人であった。
「そこまでです」
「な、何ですの?」
狼狽する袁紹に、抜き身の刀を突きつけている少女
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