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至誠一貫
第一部
第三章 〜洛陽篇〜
三十三 〜出立前夜〜
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ー」
「稟と星は、出立の準備にかかってくれ」
「はい。最短で明日、出立が可能です」
「兵にも、既に準備は整えさせてありますぞ」
 指示した訳ではないが、皆がなすべき事を考え、進めている。
 真に、良き傾向だ。
「そして疾風。大将軍に書状を届けて欲しい」
「はい。夏ツの手の者に知られずに、ですな」
「そうだ。お前以外に託せる者はおらぬ。頼んだぞ?」
「はっ、お任せを」

 その夜。
 出立の準備も整い、皆には早めに就寝するように申し伝えた。
 私は、慌ただしい出立の事もあるのだが、いろいろな手続きを踏まねばならぬ為、その書類を認めている。
 それも、ほぼ片付き、漸く一息つけそうだ。
「歳三様。宜しいでしょうか?」
「稟か。如何致した?」
「はい。歳三様に、お目通りを願っている者が来ています」
「ふむ。何者だ?」
「袁紹殿よりの使者……と名乗っております。用件は直接、お伝えしたいとの事ですが」
 袁紹と言えば……あの袁紹、だろうな。
「良かろう。通してくれ」
「はい」
 稟は一旦部屋を出て、すぐさま戻ってきた。
 髪を切り揃え、金色の鎧を着た女子(おなご)が一緒だった。
 装いからすれば、ただの使者ではあるまい。
「土方様でしょうか?」
「如何にも」
「初めまして。私は中軍校尉、袁紹様にお仕えする顔良と申します」
 顔良と言えば、袁紹麾下の勇将。
 官渡の戦いで関羽に討たれる定めにあるが……この世界も同様なのであろうか。
 だが、それほどの人物が使者として訪れるのだ、相応の用件なのだろう。
「顔良殿、ご丁寧に痛み入る。して、何用にござる?」
「はい。袁紹様より、土方様をお連れするよう、指示を受けて参りました」
「私を? 袁紹殿のところにか?」
「そうです。ご同道願えませんでしょうか?」
「……明朝、我が軍は出立の予定にござる。それを承知の上でのお招きですかな?」
「……はい。唐突とは存じますが……」
 申し訳なさそうな顔良。
 だが、主命とあれば赴かざるを得なかったのであろう。
 その口調には、少なくとも嘘はないようだ。
「承知致した。では、暫し待たれよ」
 そう答えると、顔良はホッとしたように、
「不躾で申し訳ありません。これで、主命を果たせます」
 一旦、部屋を退出した。
「稟。出立の準備は、もう良いな?」
「はい。全て整っています」
「わかった。ならば、私は袁紹の処へ参る。後は任せたぞ」
「供は、如何致しましょう?」
「……いや、無用だ。明日に備えて、皆休ませたい。お前も、休め」
「わかりました。歳三様がそう仰せならば」
 私は頷き、兼定を手に取った。


 顔良の案内で、四半刻程、洛陽の町並みを進んだ。
 やがて、見知らぬ屋敷の前に到着。

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