暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第一部
第三章 〜洛陽篇〜
三十三 〜出立前夜〜
[1/6]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 謁見は、恙なく終わった。
 陛下は玉座に腰掛けたまま、何も仰せにはならなかった。
 文官により、粛々と私の戦功が読み上げられた後、沙汰を記した書状が渡された。
 その後で、改めて口頭での申し渡しと、この辺りは完全に儀式そのものである。
 陛下の傍に控えていたのが、恐らくは張譲と趙忠であろうか。
 尤も、無遠慮に眺められる場所でも状況でもなく、確かめようもなかったのだが。
 文官に連れられ、星と稟の待つ部屋に戻る途中。
 ……不意に、視線を感じた。
 それも、明らかに私だけに向けられた視線である。
 悪意や敵意は感じぬが……。
「土方殿。如何なされた?」
 立ち止まった私に気付いた文官が、声をかけてきた。
「いや、何でもござらぬ。失礼致した」
 視線はまだ感じるが、ここは宮中、要らぬ詮索はすべきではない。
 用があるならば、姿を見せるであろう。


 二人と合流し、宮城を出て宿舎へ。
「お兄さん、お帰りなさいですよ」
「歳三殿、ご苦労様でした」
 風と疾風も、宿舎に戻っていた。
「それで、主。沙汰の方は?」
「うむ。これだ」
 書状を、星に手渡す。
 広げたそれを、皆が覗き込んだ。
「魏郡の太守に任ず……ですか。主の軍功からすれば、些か足らぬ気も致しますが」
「星。私は恩賞の多寡に不服を申すつもりはない。まずは、皆と共に落ち着くべき場所が得られた、それで十分だ」
 皆、頷いた。
「ところで、現状の魏郡がどのような地か、知るところを聞かせて欲しい」
「わかりました。まず場所ですが……」
 地図を広げた稟が、指で指し示す。
「この通り、冀州に位置します。先日、黄巾党の本隊と戦った広宗が、此処です」
「風達は、魏郡には立ち寄った事はありません。ただ、黄巾党の本拠地があった場所ですからねー」
「荒れ果てている……そう考えるべきでしょうな」
「歳三殿。もしやご存じなければ、と思いますので一応申し上げておきますが。刺史と太守には、明確な上下関係がありませぬ」
 元官吏の疾風の言葉に、私は耳を傾ける。
「刺史は州全体を、太守は郡や都市を管理するという違いがあります。ただ、刺史は太守に対しての命令系統を持っておらず、軍事権もございませぬ」
 つまり、大名と郡代のような関係ではない、という事だ。
「命令は直接朝廷から申し渡される、そうなのだな?」
「はい」
「正直、今の朝廷に、地方を統べる事が可能か、と言われると甚だ疑問ではありますが」
「ですねー。曹操さんや孫堅さんのように、力のある方は、中央からの指示を当てにしていないようですし」
「ともあれ、沙汰が下りたのです。すぐさま、任地に向かいましょうぞ」
「うむ。愛紗や鈴々、月に託している者共も呼ばねばなるまい。風、手配りを頼む」
「御意です
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ