第九章 双月の舞踏会
第九話 伸ばされる手
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―――何をしているの。泣いてなどいないで早くとどめを刺しなさい―――
抱き合う恋人のように……子を守る親鳥のようにタバサを抱きしめる士郎の頭上から、声が落ちてきた。
頭の中に直接響くようなそんな不思議な声に、士郎は頭上を仰ぎ見る。
何時の間にか晴れ渡った夜空の上に、月を背に羽ばたく何かが見えた。
ガーゴイル―――それも三十メイルはあるうかという巨大なものが、月を背に頭上を旋回している。
―――その男はもう虫の息よ。母親の心を取り戻したければ、その男を殺しなさい―――
何処か笑っているような口調で、巨大なガーゴイルはタバサに命令する。ガーゴイルを睨みつける士郎の目がすうっと細まった。
ガーゴイルの言葉がスイッチになったかのように、石のように固まっていたタバサの身体が動き出す。身体に回された士郎の腕から抜け出ると、地面を転がりながら立ち上がり杖を向ける―――頭上に。
数本の氷の矢がガーゴイル目掛け空へと昇っていく。
が、その巨大さに反し、ガーゴイルはひらりと器用に巨体を動かして氷の矢を避ける。
―――へえ……母親を見捨てるってこと―――
意外そうな声が、ガーゴイルから漏れる。
タバサは杖を握る手に力を込めるだけで、何も口にしない。ただ、ガーゴイルを見つめる瞳を更に凍えさせるだけ。
「やはりルイズが狙いか」
立ち上がった士郎が、ガーゴイルを見上げる。氷の矢が突き刺さった背中からは、未だ止まらない血が流れている。しかし、士郎の足元にフラつきはない。しっかりと地面を踏み締め、強い視線で頭上で旋回を続けるガーゴイルを睨みつける。ガーゴイルが氷の矢を避けた瞬間、士郎の目は、その背から覗く月明かりに照らし出された桃色の髪を確かに見た。士郎の問い詰めるような口調に、ガーゴイルは喉の奥で笑うくぐもった笑い声を上げた。
―――っふふ……ええ、そこの犬があなたに噛み付いている間に攫わせてもらったわ。この子も色々と厄介だから、今は眠ってもらっているけどね―――
「犬……か。貴様の口ぶりからして、タバサに俺を殺すよう命令したのはお前か」
―――ええそうよ。この子はわたしたちの忠実な犬。わたしたちの命令ならどんなことだって従う番犬―――北花壇騎士。だった筈なのだけど、飼い主に噛み付くなんて……この代償は高くつくわよ―――
ガーゴイルの首が動き、タバサを見る。
タバサの表情が浮かばない顔には変化はないが、杖を握る手が一瞬強ばったのを士郎は見逃さなかった。
「ふん、小物ほどごちゃごちゃと口五月蝿いと言うが本当のようだな。いいから貴様は黙ってルイズを下ろして逃げ帰り、そして貴様の主に伝えろ―――」
嬲るようなガーゴイルの視線から
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