第九章 双月の舞踏会
第九話 伸ばされる手
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わせたルイズだったが、安心したのか、それともかけられていた魔法の効果がまだ残っていたのか、士郎の胸元で寝息を立て始めた。
「……本当にお前は大物だな」
雲海に落ち、視界が白に染まる中、遥か上空高くから落ちているにも関わらず、二度寝するルイズの姿に呆れた声を漏らした士郎が、やれやれと肩を竦めた。
耳に届く風を切る音に、近付く別の音が混じる。顔を上げ、士郎は落ちていくガーゴイルの成れの果てに視線を向けた。
脳裏に浮かぶのは、ガーゴイル―――ミョズニルトンとタバサとの会話。
その中で、ミョズニルトンがタバサに向かって口にした「母」という言葉。
話しの流れからして、母親を人質に取られているようだが……聞いてもあのタバサが素直に話すとは思えないし。
あとで話すと言っていたが……そんな約束も、守るつもりはないだろうな……。
……まったく、何でこうも何もかも自分一人で背負ってしまうんだか……まあ、俺も人のことを言えないか…………。
自分もそう言うところがあるから、わかってしまう。
助けを求めれば、手を差し出す者は何人もいるのにも関わらず、タバサは手を伸ばすことはない。
何もかも、全部自分一人で背負ってしまう。
出来れば逃げられる前に何とか事情を聞き出したかったが、流石に色々ともう限界のようで……視界が段々と暗くなる。
未だに背中には氷の矢が突き刺さったままであるのにも関わらず、ズキズキとした痛みが遠のいていく。
魔力も体力も既に限界を通り越し、欠片も残ってはいない。
これまでの経験からこのまま意識を失えば、明日の朝まで意識は戻らないことが分かる。
意識を失っている間を、あのタバサが見逃す筈がないだろうし。
目を覚ました時には、ほぼ確実に学院から姿を消しているだろう。
だから、まあ、そうなったら仕方がない……か。
「はぁ……今からルイズたちを説得する方法でも考えるか」
腕の中で幸せそうな寝息を立てるルイズを見下ろし、これからのことを思い士郎は溜め息をつく。と、同時に身体が雲海を突き抜けた。上空を覆う分厚い雲が月の光を遮り、周囲は闇に満ちている。
疲労により鉛のように重くなった瞼が落ち始め、視界が狭まっていく。
瞼が閉じきる刹那、視界に映ったのは、
「……そっちは簡単に出来るんだな」
落ちていく士郎たちに向け必死に手を伸ばす、
「同じことの筈なのに……な……」
タバサの姿だった。
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