暁 〜小説投稿サイト〜
剣の丘に花は咲く 
第九章 双月の舞踏会
第九話 伸ばされる手
[7/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
った。

 どうして―――と、タバサは思う。
 何故、矢を放つという姿にこうまで見蕩れてしまうのだろうか―――と。
 竜の背に立ち。
 月光の下、氷の矢を放つその姿は、まるで完成された絵画のようで。

「―――きれい」

 士郎が放った矢は、まるで何かに導かれるかのようにガーゴイルに向かい、その頭部を砕く。
 一秒毎に一体ガーゴイルは地に落ち。
 そして今、ガーゴイルの群れが接敵する筈の時間。
 空を飛ぶガーゴイルは……。

「……しんじられない」
 
 ルイズを背に載せた巨大なガーゴイルだけであった。
 零れ落ちたように、タバサの口から言葉が漏れる。
 五十四の氷の矢を放ち終えた士郎が弓を下ろした瞬間、タバサの口からポツリと溢れた言葉は、誰の耳に入ることなく風の音に混じって消えていった。
 
「随分と距離を稼がれてしまったな」 
 
 ガーゴイルの群れを落としたきったが、その間に巨大なガーゴイルは距離を稼ぎ、士郎の言葉通り追跡を始めた頃と同じ、その姿は豆粒大の大きさになっている。
 超人的な技量を示したと言うにも関わらず、士郎はそれに対し何ら述べることなく、ただルイズを背負うガーゴイルの姿を注視していた。
 
「……間に合うか」

 士郎の中に焦りが募る。
 今はまだ、ルイズは速度の遅いガーゴイルの背にいるが、もし何か別の、シルフィードよりも速度の早い何かに乗せられれでもしたら、追いつくことは不可能になってしまう。
 まだガーゴイルでいる間に、どうしても追いつかなければならない。
 それに、体力の関係もある。 
 背に負った傷によるダメージは深く、士郎であってもそろそろ限界が近かった。
 迫るタイムミリットに、士郎の顔が険しくなった時、

「なっ!?」

 驚愕の声が漏れた。
 遥か遠く、ガーゴイルの進路を防ぐかのように、その進路方向に雲海からまるで潜水艦のように現れたそれは、目測で百五十メイルはあるだろう。何とか進路を防ぐそれをかわそうとするガーゴイルの動きから、どうやら敵ではないようだが、では一体何なのだと士郎の思考が目まぐるしく回る中、シルフィードは距離を詰める。
 そして、士郎の耳はその声を捕らえた。

「シロウくんっ! 私が足止めしているうちに早くミス・ヴァリエールをっ!」

 懐かしいその声に、士郎は思わずその名を叫ぶ。

「コルベール先生ッ!?」

 ゲルマニアにいる筈のコルベールの声。
 ガーゴイルと、謎の巨大な影とシルフィードの距離が詰まり、士郎の視界にその詳細が映る。
 まず始めに、音が聞こえた。夜空に巨大な何かが動く音と共に、蒸気が発する音も同時に響く。
 次に、その姿。差し渡し百五十メイルはあるだろう巨大な翼の後ろに、巨大なプロペラが回
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ