第九章 双月の舞踏会
第九話 伸ばされる手
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……気のせい」
タバサの指導にシルフィードが奇妙な悲鳴を上げたことに、士郎が訝しげな顔を浮かべ。タバサは背後の士郎を振りかえることなく短く答える。
「いや、確かに『きゃわん』と聞こえたんだが」
「気のせい」
「い―――」
「―――気のせい」
「……」
「……」
淡々とした、しかし有無を言わさないタバサの声に、士郎は頬を引くつかせて黙り込む。
ばっさばっさとシルフィードの羽ばたく音だけが聞こえる中、士郎がぽつりと声を漏らす。
「……そう言えば、まだ食事を取っていなかったな」
「……」
「タバサはどうだ? 今晩は何か食べたのか?」
「…………まだ」
「そうか、まだ……か」
自分もと言うように、シルフィードが「きゅいっ!」と鳴く。
士郎はタバサの小さな背中とシルフィードの背中を交互に見ながら、「くくっ」と押し殺した笑い声を上げると。
「それじゃあ、このゴタゴタが終わったら一緒にメシでも食うか」
「―――っ」
士郎の笑い声混じりの提案に、シルフィードは直ぐに「きゅいっ!!」と賛成とでも言うように鳴き声を上げた。
「ふむ。シルフィードは賛成のようだが、タバサはどうだ?」
振り返ることも言葉を返すことなく背中を向けたままのタバサに、士郎が尋ねる。
士郎の問いに、タバサは暫らくの間黙り込んでいたが、やがてぽつりと短く返事を返す。
「……別に構わない」
「そっか。なら、さっさと終わらせて食事にしよう。そうだ、ルイズたちもまだ食べていないだろうし、みんなで食べないか?」
「……好きにしたらいい」
「ああ。了解だ、好きにする。みんなで食事にしような」
何時ものそっけないタバサの返事に、士郎は笑い声を混じらせながら頷く。
笑うたびに身体が揺れ、背中の傷がひどく痛むが、士郎の顔に欠片も苦痛の色が浮かぶことは無い。 そんなことよりも、もっと気になることがあったからだ。
食事に誘った返事に、タバサは普段通りの無味乾燥的な言葉と声で返したが、その返事が、何時もよりも早口であったことに。
そう、それはまるで、恥ずかしがっているようで……何処か所在無さ気に身体を揺らすタバサの背中を見て、士郎はふっと、微笑ましげに口元を緩めた。
ガーゴイルの飛行速度はシルフィードのそれよりも遅いため、一秒ごとに近づきその姿を大きくしていく。
月明かりに照らし出されたその姿は、陰影が強調され随分と迫力があった。
月を背に巨大な翼を羽ばたかせるその姿に、士郎はレイナールが口にしていた噂を思い出す。
あの噂はこれのことを言っていたのかもな。
大きさは随分と違うが、突然こんなものが視界に入ればパニックにもなっただろうしと、
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