第11話 耳元で甘く囁くのは魔物だそうですよ?
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付いて来ているのは判る。そして、それが非常に危険な相手で有る事も、今のリューヴェルトには判った。
但し、動き出そうにも、身体の自由が利かない。何故か意志とは反対に、目の前の青年の言葉に耳を傾けて仕舞う状態。
背後より迫り来る悪意は耐え難い……。直ぐにでも翼を広げ、危険を承知で蒼穹へと飛び立つべきだと本能が告げて居るほどの悪意を備えている。
「蠱と言う物を知っていますか、リューヴェルトさん」
歌うように、舞うように、そう問い掛けて来るバンダナの青年。
闇の奥深くより聞こえて来るその声は、先ほどまでよりも更に淫靡で、この異常な空間内で唯一リューヴェルトに取っての救いで有るかのように感じられる。
「西洋のドラゴンとは勇者や英雄に倒されると言う宿命を持つ存在。しかし、東洋に置いての龍とは神」
まるく開いた空間に煌々と差し込んで来る月の光りを全身に浴びながら、ごく自然な雰囲気で立つバンダナの青年。彼こそが闇の支配者で有るかのような、そんな気さえして来る雰囲気。
「龍とはほぼ無敵の存在。しかし、残念ながら、この世界には絶対は存在しない」
がしゃがしゃがしゃがしゃ――――
その青年の月下の独白に重なる、不自然な。何か巨大な堅い物体が森の中を動き回る音。
いや、その正体は既に判って居る。龍の天敵とは……。
「大丈夫ですよ。何も、危険な事は有りません」
そう青年が口にした瞬間、先ほどまで五月蠅いぐらいに聞こえていた、音が止んだ。
しかし、自らの背後から感じる強い悪意は変わらず。
そして、吹き付けられる……。
そう。東洋に置いては巨大化し、妖物と化した百足に取っては、どのような龍で有ったとしても……。
「リューヴェルトさん。貴方は何か、強い望みをお持ちでは有りませんか?」
一方的な捕食者と披捕食者の関係と成る。何らかの術の影響下に有りながらも、其処まで思考を進めたリューヴェルトに対して、再び、そう問い掛けて来るバンダナの青年。
先ほども問い掛けて来たその問いの答えは……。
忘れられぬ思い出。
消え去った国に住んでいた人々……。
当然のように、それぞれの顔を思い出す事が出来る。
「神とは過酷な物ですよ。しかし、同時に慈悲深い存在でも有る」
澱んだ瘴気。先ほどまでは確かに芳しき花の香りに包まれていた龍穴が、今は重苦しい、死の森と呼ばれている森に相応しい気配に支配されている。
しかし……。
しかし、耳が捉えている微かな音色。
「さぁ、僕の手を取って、もう一度あの瞬間に戻りましょう」
今のリューヴェルトさんならば、簡単に排除出来るはずですから――――
夢の向こう側から、そう誰かが語り掛けて来る。
その声に重なる
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