第一部
第三章 〜洛陽篇〜
三十二 〜参内〜
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きたので、持ってきたのはごくありふれた、この時代の剣である。
よもや取り上げられたまま、という事はなかろうが、どちらも私には分身に等しい刀。
万が一手元に戻らねば、私にとっては一大事となる。
同様に、星と稟も、剣を預けた。
……流石に、宮中に槍は持ち込めぬからな。
衛兵が去り、三人だけとなった。
「やはり、どうにも落ち着かぬな」
「無理もありません。私も同じですから」
「ですが、何となく退廃した印象を受けますな。どことなく、皆覇気が感じられませぬ」
「やはり、そう思うか。眼に、精気がないようだ」
「歳三様。私も同感ですが、この事はくれぐれも」
「……わかっている。陛下や十常侍の前では、口にも態度にも出してはならぬ、そうだな?」
「はい。とにかく、恙なく謁見を済ませる事。今はそれしかありませんから」
「そうですな。愛紗や鈴々も待ち侘びていましょう、皆の処に早く帰る為にも」
バタン、と不意に扉が開いた。
見ると、子供が二人、立っていた。
「追われているのじゃ。私達を匿え」
「杜若、追ってきたよ」
しかし、此処は宮中。
追われているとは穏やかではない。
それに、二人とも、身に纏う気品……常人ではない。
「何をしている。はよう、私達を匿うのじゃ」
苛立ったように、片方の子供が言う。
「では、あの衝立の向こうに入りなされ」
「主?」
「歳三様!」
星と稟を手で制し、子供二人を衝立の陰に連れて行った。
その後から、女官が息せき切って部屋に入ってきた。
「あ、これはご無礼を。このあたりで、二人連れの子供を見かけなかったでしょうか?」
「子供でござるか。どのような子供で?」
「そ、それは……」
女官は、言い淀んだ。
そこに、稟が立ち上がり、首を傾げながら答えた。
「そう言えば、先ほど廊下を其方に駆けていく子供を、見かけた気がします」
「私も見ましたぞ。確か、二人連れだったと見受けましたが」
星は、態々廊下に出て、方角を指し示した。
「そ、そうですか。ありがとうございます」
どこかホッとしたような顔をして、女官は駆けていった。
「二人とも、流石だな。機転が利くな」
「ふふ、歳三様の芝居に合わせたまでですよ」
「ははは。さて、もう宜しいのではありませぬか?」
「そのようだ。……もう大丈夫にござる、お出なされよ」
私の呼びかけに、子供達はそっと顔を覗かせた。
「ほ、本当にもうおらぬのか?」
「星、どうか?」
「はい。人の気配はありませぬ、ご安心めされよ」
その言葉に、漸く二人とも衝立から出てきた。
「助かったのじゃ。礼を申すぞ」
「ハァ、杜若と遊びたいだけなのに……ぐすっ」
「菖姉様、泣かないで下され」
この二人、姉妹か。
……この宮中で
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