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センゴク恋姫記
第2幕 曹孟徳
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 そう思った曹操は、まさに権力者の思考だった。

「……貴様っ!」

 だが、武人である春蘭には恥辱である。
 この女尊男卑の世で、自負する自分の武が受け止められたのだ。
 たかが、男に。
 春蘭――名にし負う夏侯惇の自分が、である。

 夏侯惇は、自分の剣を受け止めた男を睨む。
 その男、ゴンベエは――

「……な、なんつー馬鹿力じゃ」

 びびりまくっていた。

(や、やばかった……後一瞬遅れていたら、確実に死んどった。ほとんど無我夢中で刀を合わせたはいいが……力は堀才助以上じゃ。というか、なんでこのおなご、こんなに怒っとるんじゃ?)

 正直、偶然だった。
 いきなりの殺気に、体が無意識に動いた。
 気がついたら、見えもしない太刀から避けていた。
 そして、避けても殺気が追い付いてきた。
 無我夢中で刀を抜いて、勘を頼りに振りぬいた。

 そして今の状況である。

 全てはゴンベエ自身の、十数年間の間に培った生存本能の賜物だった。
 そして、その経験を持ったまま、十代の若々しい肉体の条件反射能力のおかげでもある。

 十代の頃の経験のなさでは死んでいただろう。
 三十代の肉体では、最初の一太刀を気づいても避けられなかっただろう。

 両方を持った今のゴンベエだからこその、奇跡だった。

(殺気は右府様以上……力は堀才助以上……速さは久太郎以上じゃ。こんなん勝てるかっ!)

 すでに腰が引けている。
 後一合、夏侯惇が打ち合おうとすれば、ゴンベエが受けきる事など、まず出来なかったであろう。
 だが、そこに救いの手が差し伸べられる。

 誰であろう、曹操の手によって。

「そこまでよ、春蘭!」

 主君である曹操の、激しい叱責の声がする。
 夏侯惇は、いざ、もう一太刀、と勢い込んだ矢先の制止の声に、ビクッと身体を竦めた。

「で、ですが、華琳様! こやつは私の真名を――」
「聞こえないのか、夏侯元譲!」
「……………………っ、はっ!」

 曹操の言葉に、夏侯惇が力を抜く。
 だが、その静止の言葉は片方にしか有効ではなかった。
 つまり――

(今じゃ!)

 目の前で隙だらけとなった相手に、一瞬の勝機を見出してゴンベエは、刀を押し込んだ。
 力を抜いていた夏侯惇。
 不意をつかれれば、大陸有数の豪傑とて脆いもの。

「なっ!?」

 たまらず仰向けに倒れる。
 そして、その上にまたがったゴンベエは、長い刀を捨て、脇差しを抜いた。

「やめ――」

 曹操の制止の言葉も、ゴンベエには効果が無い。
 すかさずその脇差しで、夏侯惇の首をかっきろうとする。

(やられる!)

 夏侯惇が、蒼白な顔で己の死を覚悟した
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