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剣の丘に花は咲く 
第九章 双月の舞踏会
第八話 タバサ
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理解できず、タバサの思考が白に染まる。
 どれだけ呆然としていたのか、目の前の光景を理解し始めて最初に浮かんだ言葉が、

「な……ぜ?」

 浮かぶと同時に口から漏れていた。

 何故? 

 何故―――彼はこんなにも血だらけになっている?

 何故―――わたしは生きている?

 何故―――彼は笑っている?

 ―――何故?

「何故と言われてもな」

 士郎は、タバサの問いに困ったように首を傾げる。

「どう言ったものか」

 何処か恥ずかしげに呟くと、士郎はタバサの身体に回した腕を動かし、その指先で頬に流れるものを拭いながら、

「泣いている女の子を助けるのに、理由はいるのか?」

 困ったように苦笑を浮かべた。

「……あ」

 その時になって初めて、タバサは自分の頬を流れるもう一つのものに気付いた。
 言葉に導かれるように無意識に伸ばされた指先に、瞳から流れる涙が触れ、驚きの声が漏れる。
 腕が自由に動くことに疑問を浮かべる余裕もない。
 全身を包んでいた氷は、まるで抱きすくめる士郎の熱で溶かされたように既になく。代わりにと言うように、士郎の腕に身体を抱きすくめられていた。
 
「……え?」

 そのことに気付くと、タバサの口から自然と戸惑いの声が漏れていた。
 何が起きているのか、現実が信じられず混乱に陥ろうとしたタバサの思考が、

「っ!?」

 士郎の背中に突き刺さった何本もの氷の矢を目にした瞬間凍り付いた。
 
「まさ……か」

 氷の矢が突き刺さった背中から溢れ出した大量の血が、士郎の身体を朱に染めていた。
 驚愕の声が、タバサの口から漏れる。
 目にしたもので、何故自分が生きているのかその理由を知った。
 彼は……衛宮士郎は……自分の身体を盾にしてタバサ(わたし)を守ったのだと。

 意味が……分からなかった。
 命を奪おうとした(わたし)を助けたこともそうだが、その方法を選んだことも。
 彼ならば、他にも方法はあった筈だ。
 自分を盾にしなくとも、わたしを抱えて逃げることも、その場に留まり迫る氷の矢を剣で切り払うことも出来た筈。
 にも関わらず、彼は自分を盾にすることを選んだ……意味が……分からない。
 理由は……分からないわけではない。
 彼は、わたしの命を最優先にしたのだろう。
 他の方法では、降り注ぐ全ての氷の矢を防ぐことは不可能だから、自分を盾にすることを選んだのだ。
 だけど、その意味が分からない。
 何で?
 どうして?
 あなたはこうまでしてわたしを助けたの?

 ―――泣いている女の子を助けるのに理由がいるのか?―――。

 本当に……あなたはそんなことでわたしを救ったの?



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