第九章 双月の舞踏会
第八話 タバサ
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彼の性格からして、何とかわたしを助けようとするだろう。
しかし、それは不可能。
ほぼ同時に降り注ぐ氷の矢は、彼の処理能力を確実に超えている。
そして更に、わたし自身を罠としたこの作戦は、完全に彼の虚を突いていた。
いくら彼が歴戦の戦士であろうとも、未知数の力を持っていようとも、その力を振るう暇さえなければ無いも同じ。
氷の矢による死の雨は、確実に彼とわたしに降り注ぎ。
対処出来なかった氷の矢が彼と、そしてわたしに突き立つ。
だけど……それでも、きっと、この死の雨で彼を殺しきることは出来ない。
わたしを守ろうとすることで、何本かの氷の矢を受けるだろうが、ただそれだけ。
殺すまでには至らない。
精々が腕の一本を使えないようにするぐらいの筈。
わたしの命を代償に、腕一本。
大戦果だ。
だけど命令は彼の命。
これで、母の心を救えるかどうかは分からない。
なのに……何故……こんな方法を……。
命を代償にしても、殺すことが出来ないと分かっていながら……こんな方法をとるなんて……わたしは……どうしてしまったんだろう。
……もしかしたら……わたしは……死にたかったのだろうか……人形で……あることに疲れ……。
母の心が戻るその時まで……人形でいようと誓ったのに……。
……ごめんなさい……ジル……立派な狩人だと言ってくれたのに……わたしはやっぱり……逃げてばかりの……甘えた……親不孝者……。
……狩人なんかじゃ……なかった……。
だって……わたしは……獲物であるはずの彼を殺さなくて―――こんなにほっとしているのだから……。
「……全く……大した奴だ」
もう開くことはないと覚悟して閉じた瞼は、そんな、呆れ混じりの声に応えるように、ぴくりと動いた。
夢と現の狭間の中、悔恨とも懺悔とも違う何かを呟き続けていたわたしの意識が、ゆっくりと浮上していく。
最初に感じたのは熱。
全身を包み込む熱と、頬を流れる熱……。
次に味。
ぽたぽたと頬に降り注ぎ、涙のように伝い……それは口に触れる……。
苦い……鉄の味。
……これまで何度となく感じたそれは……血の味。
歪み滲む視界は、次第に焦点が合い始め。
瞳に映ったのは、
「ルイズもそうだが……貴族というのは、無茶をする奴のことを言うのか?」
流れる血により、真っ赤に染まった顔で笑いかけてくる。
「まあ、いい。それよりもどうだ……怪我はしてないか?」
衛宮士郎の顔だった。
……声が……出ない……。
いや、違う。
言葉が……ない。
視界に映る光景の意味が
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