第九章 双月の舞踏会
第八話 タバサ
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てを救う正義の味方になると、臆面なく口にした男。
出来もしないことを口にするいい加減な男。
そんな男の言葉の一つ一つに……何故かわたしの心は揺れ、氷ついた筈の感情が動いた。
何故……だろう。
理由なんて分からない。
気付けば、その姿を目で追っていた。
彼の行動を見つめていた。
優柔不断で、押しに弱く、そして何より―――甘い……男。
エミヤシロウを……。
ミョズニルトンと名乗る女からの命で、彼を殺せと言われた時、胸に痛みが走った。
……何故だろう。
彼は強く、わたしでは確実に勝てないことは分かっていた。
ずっと……見ていたから。
彼がどれだけ疾く、どれだけ強いのか。
だけど、母の心が取り戻せる可能性があるのなら、万が一に掛けるしかなかった。
練に練った作戦は想像以上に上手くいき、彼の手は、今、自分の手の中にある。
氷に覆われ冷え切った身体の何処かが……熱を持った気がした。
天と地ほど離れた実力差を埋めるため、彼の甘さを利用した。
魔力の使い過ぎのためか……胸が……苦しい。
気付けば言葉が口から漏れていた。
殺そうとする相手に……何故、謝ったりしたのだろう。
不意に向けられた視線が、わたしの視線と交わる。
彼の瞳には、絶望も、怒りも、悲しみも……なく。
ただ、わたしを気遣うような暖かい心が宿っていた。
何処かから、ナニカに……罅が入る音が聞こえた。
夜空から落ちてくる氷の矢は、もはや彼でも避けきれない距離に迫っていた。
降り注ぐ氷の矢の雨は、彼だけでなく、わたしの身体も易々と貫くだろう。
氷に覆われ冷え切った身体から、眠気が迫り、わたしは微睡みに抱かれる。
朧に滲む視界の中、最後に映ったのは……赤い、影だった。
残された魔力を全て使用した氷の矢の最大展開。
届く限りの高々度において放った氷の矢は、重力で更に加速し、如何なる者も防ぐことが不可避の死の雨となる。
しかし、それでも彼ならば、その死の雨さえくぐり抜けてしまう可能性があった。
だから、わたしは利用した……彼の弱点を……。
『全てを救う』と、夢物語を口にする彼の甘さを……利用した。
身体の周りを凍らせたぐらいで、彼の動きを止められるなんて最初から思ってもいない。
彼の動きを止めるための罠は―――わたし自身。
一瞬だけでもいい。
彼がわたしに意識を傾ければ、氷の矢はその身を貫く。
未だ彼の力は未知数なところはあるが、それでも確実に矢の一、二本はその身体に届く筈だ。
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