第九章 双月の舞踏会
第八話 タバサ
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、ヴェストリの広場に設けられた林から。だが、士郎はそこに向かわず、何もない芝生の一角に向け駆け出していた。遮るものはなく、また隠れる場所もないが、建物の影となっているため、未だ雲の隙間から顔を覗かせる月の光から唯一逃れていた場所。
走る士郎の前に、唐突に氷の壁が生まれる。
一瞬で五メートルを超える高さとなった壁だが、その時には既に士郎の身体はその上、上空にあった。
地を蹴り軽く氷の壁を飛び越した士郎の耳に、風を切る音が響く。
氷の矢―――ではない。
建物の影になっているため、飛んでくるものの姿は見えない。だが、士郎は先ほどよりも多く、また、聞こえる風切り音が違うことから、飛んできているものが氷の矢ではなく、もっと小さいものだと判断する。
―――礫、かっ!?。
聞こえる風を切る音だけで、士郎はその正体を看破する。
士郎の想像通り、それは氷の礫であった。
拳ほどの大きさの礫が、先程の氷の矢に数倍する数と速度で士郎に襲いかかる。
矢よりも殺傷力は弱いが、それを補って余りある程の数と速度。更に空中にいるため、メイジでもない士郎は回避することは不可能であり、一発でも当たりバランスを崩せばそのまま地面に向け落下。最悪頭から落ちて死ぬ可能性もある。
―――だが、何よりも厄介なのは。
迫る氷の礫に対し、士郎の眉間に皺がより、頬を冷えた汗が伝う。
どれだけの数が襲いかかって来ようとも、一方向だけならば、両手に握る干将と莫耶を振るいくぐり抜けることは不可能ではない。
問題なのは、前後左右そして上下、全方位から氷の礫が襲いかかってきていることだ。
前方だけなら剣を振るいこれを叩き落とせばいいだけの話だが、後ろも、さらには上下左右から同時に襲い来る無数の礫全てに対処することは、いくら士郎であっても不可能。
王手。
脳裏にそんな言葉が過ぎる。
偶然ではなく、ここまでの流れは全て計算だと士郎は悟る。
雲から月が覗いた瞬間に、氷の矢を見せて攻撃を仕掛けることで、無意識下に氷の矢を警戒させるとともに、攻撃の際、わざと剣を振るわずに避けることが出来る程の速度と隙間を作った。次に、駆ける士郎の速度に合わせ、横に逃げられないように長く低い氷の壁を作り上げることで、上空に逃げさせる。氷の壁の高さと幅、そして出したタイミング。その全てが剣を振るよりも跳んで避けた方がいいと判断させる絶妙な瞬間に、氷の壁は生み出された。
そして最後に、上空に逃げたのではなく追い込まれた士郎に向け、全方位から闇に隠した氷の礫で放つ。手練であっても、このタイミングで闇の中から飛んでくるものを氷の矢と勘違いする者はいるだろう。士郎は風を切る音でそれを
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