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センゴク恋姫記
第1幕 仙石権兵衛
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……孫ーっ! ソバカスーっ! おるかーっ!」

 ゴンベエは起き上がりながら、仲間の二人の名を呼ぶ。
 だが、白い霧の中、その周囲の視界はまったくといっていいほど見えない。

「なんじゃここは……わしはどうなったんじゃ……?」

 ゴンベエは、自身手や足、顔などをぺたぺたと触る。

「……足はあるの。死んどらんのか。ちゅうこたあ……あ、夢か」

 そんな馬鹿な。
 と、誰かのツッコミも聞こえはしない。

「まいったのう……急いで有馬に向かわんと、籐吉郎様に何を言われるか……」

 ぼりぼりと頭を掻きつつ、とりあえず歩こうとしたその時。

「フンフンフ〜ン♪」

 調子の外れたような声と共に、白いもやの向こうから誰かが近づいてくるのが見えた。

「お! 誰かおるのか……おおぅい! ちくと道を尋ねたいのじゃ、が……ぁ……」

 ゴンベエが手を振り叫ぶも、その声が次第に小さくなる。
 その理由は……こちらに向かってくる相手の異様な姿にあった。

「だ、誰じゃ、お前!?」

 薄黒く筋肉質な肌。
 衣服は着ておらず、桃色の下帯(パンツ)のみの湯上りのような姿。
 (まげ)は降ろして二つに分けて編んであるという、あるまじき髪型(ヘアーセンス)

 なにより、その巨漢な姿にまったく似合わない身体のくねらせ方。

(ほ、堀才介よりでかいっ!?)

 ゴンベエが化け物を見るように見上げつつ、武将としての条件反射で腰の刀に手をかけた。
 だが、あまりの気持ち悪い姿に、がたがたと震えだす。

「あ〜ら、なかなか格好いい男じゃないの〜。アタシ、惚れちゃいそう♪」
「ひ、ひぃ!?」

 生理的嫌悪……などという言葉もない時代である。
 ブツブツと泡立つ腕を、抱えるように後退りながら刀を抜く。

「な、ななななななななななな、なんじゃ、お主は!? 伴天連の者か!?」
「んふふふ……反応もなかなか可愛いじゃないの。アタシがツバ付けちゃおうかしらぁん?」
「な、なんじゃと!?」

 見るもおぞましいといった様子で、刀を構えるゴンベエ。
 だが、彼の鍛え上げられた生存本能は、すぐにもこの場から逃げろと脳裏で警鐘を鳴らしていた。

「ま、まずい……こんな化け物など相手にできん……」
「だ〜れが、織田信長すら逃げ出す第六天魔王の申し子だってぇ〜?」
「お、大殿を知っておるじゃと……?」

 ゴンベエの眼の色が変わる。

「あら、いけない。アタシとしたことが……つい口走っちゃった」
「……貴様、何者じゃ?」

 ゴンベエの眼差しが、幾千の修羅場を潜り抜けた武人の目へと変わる。
 だが、その鋭い眼光を受けながらも、目の前の変人は涼しい顔で頬を掻いていた。

「しょう
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