暁 〜小説投稿サイト〜
センゴク恋姫記
第1幕 仙石権兵衛
[2/8]

[1] [9] 最後 最初 [2]次話
バカスが、顔を見合わせながら神妙に言う。

「馬鹿者! わしの屁はそんなに臭くないわい! ほれ、こうして……オエッ!」

 騎乗の人であるゴンベエは、その尻からの匂いを手で手繰り寄せるように嗅ぎ……その匂いに咽る。

「馬鹿ですか、ゴン兄」
「馬鹿だな」

 呆れる従者である二人。

 漫才のような三人は、湯山街道を西へ歩を進めている。
 仙石ゴンベエは、ここ中国方面軍の湯山奉行としての任に就いている。
 湯山奉行とは、いわゆる温泉で裸の要人を警護する任であり、またその周囲一帯の警備を統括する者だった。

 そして彼は今、その上司である羽柴筑前守秀吉に(いとま)返上で警護の命を受け、美濃の自領地より有馬温泉へと向かっている最中なのである。

「やれやれ……本来は半兵衛様の為に買って出たはずが、なんでこんなことに……」

 ぶちぶちと文句を垂れるゴンベエ。
 その様子に、孫は苦笑する。

「それ、籐吉郎様に言わないでくださいね」
「言うだろうな、絶対」

 孫の言葉を即座に否定するソバカス。
 彼の言葉は、いつも的を射ていた。

「お前ら、わしをなんだと思ってるんじゃ! 一万石の大領主じゃぞ!?」

 叫ぶゴンベエに、素知らぬ振りを決め込む二人。
 他者が見ても、三人が主従関係とは思えない姿だった。

「なら、もうちょっと威厳というものをですね……」
「無理だな、無理」
「お前ら、減俸にしちゃろうか……」

 すでに石山の町を過ぎ、湯山街道を有岡城へと向かう街道の上。
 織田領となったこの場所は、盗賊への苛烈な取締りと商人保護の為に、安全を最優先で考慮されている。

 その為、こんな馬鹿な話を無警戒できるほどに、街道は安全だった。

 そのはずだったのだが……

「!?」

 ソバカスが前方から歩いてくる一人の男、その異様な雰囲気に眼を細める。

「どうしたんだ?」

 横にいた孫は、同僚の急変した顔色に訝しげな表情をする。
 そして騎乗の人、ゴンベエはそれすらも気がつかず、鼻をほじっていた。

「おい……気をつけろ。なんか嫌な空気を感じる」

 その言葉に、孫はようやく顔色を変え、左手で刀の柄を握る。
 三人は武将であり、それは織田領の道中でも甲冑を着込んでいた。

 そして孫は片手に槍を持ち、ソバカスは鉄砲を担いでいる。

「む……? あの商人がどうかしたのか?」

 ゴンベエが無頓着な顔で、様子が変わった二人を見る。
 この期に及んで鼻をほじる姿は、一万石の領主とは思えぬ姿だった。

「気がつかねぇのか、あいつ……透波(すっぱ)かもしれねぇ」
「ゴン兄! お気をつけを!」

 二人は警戒心全開で、前から近づく優男を睨む
[1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ