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至誠一貫
第一部
第三章 〜洛陽篇〜
三十一 〜伝説の名医〜
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 そうは言うものの、やはり警戒を解くつもりはないようだ。
「そう身構えずとも良い。命は助けると言った約束は違えるつもりはない」
 些か、三人の緊張が緩んだようだ。
「何故、宦官の手先など務めているのだ?」
「……仕方ないだろうが。俺達だって生活がある」
「ふむ。では、好き好んで、という訳ではないのか」
「当然だ。誰があんなタマなし野郎にへこへこしたいかよ」
 一人が、吐き捨てるように言う。
「連中は私腹を肥やす事、権力欲を満たす事しか眼中にないんだ。だが、今の外戚は目障り……だから、屋敷を見張り、不審な奴は正体を確かめたり、場合によっては始末しろ。そう、指示されているだけさ」
 別の男は、嘲るように言った。
「今の洛陽の有り様、あんたも見ただろう? 仮にも天子様のお膝元で、惨めな暮らしを送るしかない人間が大勢いるんだ。はした金で殺人も厭わない、いや、やるしかない奴も少なくない。俺達みたいに、な」
「…………」
 稟は、そんな男達の言葉に、ジッと聞き入っている。
 どうやら三人とも、心まで腐りきった連中ではないようだな。
「やむに止まれぬ、お前達の事情はわかった。剣を向けた事も、主命故仕方なかろう」
「…………」
「だが、そのまま解き放つ訳には参らぬぞ?」
「命は助ける、その約束だぞ?……まさか、此処に閉じ込めておくつもりじゃないだろうな?」
「そのつもりはない。気がかりは、お前達自身の事だ」
「俺達だと?」
「そうだ。このまま解き放てば、いずれにせよ不幸な結末を迎えるだろう」
「意味がわからんな。俺達が戻れば、アンタの事を報告するだけ。拙い事になるのは、アンタの方じゃないのか?」
「私達は確かにそうだろうな。尤も、降りかかる火の粉は払いのけてみせるが。だが、お前達はどうなる?」
「どうなる、とは?」
「決まっているだろう。如何に拷問にかけたとは申せ、洗いざらいを吐いた事、よもや夏ツに知られずに済む、とは思うまい?」
 三人の顔が、一様に青ざめる。
「……まさか、俺達の事を、告げ口するつもりか?」
「そうではない。稟、説明してやれ」
「はい」
 クイクイと眼鏡を持ち上げてから、稟は話し始めた。
「まず、こうしている間にも、刻は過ぎています。あなた方のやり方は知りませんが、これだけの間連絡を絶やす事は、常識で考えれば取り決めに反しているのでしょう? となれば、誰しも何か起きたと考えるのが自然です」
「…………」
 男達は、黙って稟の言葉を聞いている。
「それから、その怪我をどう説明するつもりですか? 捕らえられたが逃げ出した、と説明して果たして信じるでしょうか?」
「それは……」
「そうでなくても、宦官は猜疑心が強く、他人を信用しない傾向があります。そんな人物が、あなた方の事を、容易に赦すで
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