Episode3 朝
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「…きて、カイトさんっ!朝ですよ、起きてくださいっ!」
「…むぅ……後5分だけ…」
深い眠りの底にいた俺の耳を元気な声が直撃する。条件反射的な反応として安っぽい宿の薄っぺらい毛布を頭まで被った。それでも、俺を起こすための《朝ですよコール》は少しボリュームを下げただけで絶賛続行中。
「ねーえーっ!…もう!カイトさんはお寝坊さんですっ」
いまだ身体を揺さぶりながら、年下の女の子にそんなことを言われてしまったことに少々忸怩たるものを感じたが俺の頭は一向に働こうとしない。もう一度眠りに落ちてしまいそうになっていた俺の耳、いや脳を甲高いアラーム音がクリーンヒットした。…そういえば、アラーム音が自分にしか聴こえないことをいいことに、音量マックスにした上に一番嫌な――それこそ黒板を全力で爪で引っ掻いたような――音に昨日変えたことを忘れていた。
「〜〜〜!うるさっ!」
堪らず毛布を跳ね上げて上半身を起こすと視界に浮かぶアラームのウインドウの停止ボタンを叩いた。ジワジワと変な感覚を残す耳を揉みほぐしていると満面の笑みが俺の顔を覗き込んできた。
「えへへっ、起きましたかっ?」
「…うむむ、おはよう」
「はいっ、おはよーございますっ!」
そういったアカリから間髪入れず木の器が差し出される。受けとったそれを何の気なく飲んでしまってから、慣れたものだと苦笑した。
現在の最前線は28層。アカリと出会ったあの頃から実に20層分の時間が経過したことになる。が、出会った頃と何も変わらない。変わったことといえば前線に顔を出せなくなったこと。あと、一人であーだこーだ考えることが減ったこと。
どこに行くにもアカリはついて来るから危なっかしくて前線には行けないし、一緒に居ればアカリは何かしら話している。要するに、一人の時間がなくなったということだ。
それを嬉しく思わない人もいると思う。ただ、俺は今のこの状態が好きだ。
――この世界で《生きている》と感じられるから。
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