第五章、その1の3:狂王の下僕
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『ーーー魔術の行使において最も大切なことの一つは、魔力を自身のコントロール下に収めることである。一般に魔力は才能のある者にしか備わっていないと考えられがちだが、実際にはかなり広範にその存在が認められている。スラム街で寝て暮らす幼いスリにも、度々街道を襲うサーベルタイガー型の魔獣にも魔力は備わっているのだ。彼らが何らかの機会で魔法を行使したとしよう。そうすると体内にある魔力が、脳から生成されると考えられる活力物質のように活発化し、それを行使する術を発見するのである。いわば力を扱う術を本能的に理解するのだ。
・・・中略・・・本来なら彼らは、旧石器時代に火の熾し方や石の磨き方を学んだ勇者たちの様に、進化の道を歩むはずなのである。ただし、その切欠だけで魔力を行使できるのには一定の限界がある。自発的に目覚めたからといって、力の全てを十二分に使えるという訳では無い。応用の手段・・・すなわち魔術の粋に達するためには、また別の方法があり、才能だけではどうにしようもない壁がある。
それこそが魔術学院と教会によって作られた、国家機密という名の大いなる闇である。魔術の理論を秘匿し、一部の者達で独占するこの体制は、人々の啓蒙の光を与えないばかりか退化の道を歩ませているようにしか見えない。この闇が存在する限り、人々は自分自身の可能性に気付いても、それを利用する事無く命を終えてしまうのだ。
私はこれを打ち崩す事に生涯を掛けよう。闇を撃ち払うべく艱難辛苦の途を行き、人々に新しい道を示したい。そうする事で人々は、新しい力による、新しい国を造る事が出来るのだから。きっとそうすれば、闇に呑み込まれていった人々の無念も、父さんの無念も払われるだろう。私はそう、信じている。
明日から、教会の御勤めに行く。あそこの司祭様はこの国には珍しく清廉な方と聞いている。きっと私の心を理解して下さるに違いない。彼との意気投合を第一歩として、頑張っていこう。全ては父が愛した、王国のためなのだからーーー』
ーーー新王国歴23年9月3日 著者チェスター=ウッドマン 『日記』より抜粋
ーーー新王国歴31年1月9日、ヴォレンド遺跡にてーーー
龍が空高く飛んでいる。翼を片方潰され、獲物を仕留めそこなったせいで機嫌をいたく損ねているようだが、しかし龍の胸中には誇らしい気持ちが湧いていた。
数えるのも面倒なくらいの時間を経て、遂に彼の主君が目覚めようとしているのだ。かつては臣下の逆撃に遭って眠らされ、肉体は朽ちてしまったが、彼の強大な魂は『魔力の器』に繋がれたまま確りと存在しており、そして今、忠実な贄の行いによって部分ながらも復活している。後は全ての『器』が揃えば、主君は完全なる復活を遂げる筈である。
龍は己の使命を理解していた。主君がこの世に顕現するまで
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