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王道を走れば:幻想にて
第五章、その1の3:狂王の下僕
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抜けていった。射線上にいた慧卓はすぐに横へと駆けて火球を避けていく。それを見ながらチェスターは、まるで可愛いペットと戯れるかのように単調に魔術を炸裂させていった。義眼からふつふつと発露する強大な魔力に身体をほとんど乗っ取られるような感覚に陥るが、しかしそれ以上に彼は多幸感を感じていた。全うな生活を送っていれば絶対得る事は無かったであろう圧倒的な力に酔い痴れていたのだ。余りにも大きすぎる魔力に身体が付いていけなくなるという危惧もあった気がしたが、火球が弾けるのに魅せられて雲散霧消してしまった。
 悦びを顔に表すチェスターとは対照的に、慧卓はてんてこ舞いであった。だだっ広いだけの障害物も何もない空間が戦場なだけあって、全体を見渡せる高い位置に構えているチェスターは圧倒的な優位を保持している。加えて、火球が爆発すると同時に床が崩れるため、徐々に平らなスペースが減っていくのだ。接近するのも適わず剣は手持無沙汰となり、しかしチェスターの攻撃は止んでくれない。状況は時間と共に悪化していく一方であった。
 それでも慧卓は闘志と崩さない。新たな武器が、彼の手中にあったからだ。慧卓がそれを、魔道杖を振り払うと、その先端から火球が打ち出された。チェスターのものより幾分か小さいものだったが、確かに魔術が作りだす火球であった。

 ーーー使えるっ、俺にも魔法が!

 慧卓の自信を焚きつけた火球は、しかし真っ直ぐに飛んできた特大の火球と相殺され、砕かれてしまう。チェスターは優雅な仕草で台座に座り込んだ。

「おいおい、どうした?まだ私には傷一つついていないぞ?少しはやる気を見せたまえ」
「うるせぇっ!そう言うなら少しは手加減しやがれ!こちとら逃げ場なんてどこにも無いんだぞ!?俺は狩人の獲物か!?窮鼠を舐めるなよ、おい!」
「自覚があったようで何よりだ。まだ自分がハンターの立場だと思っていやしないかと、少し心配していたのだ。だが、騎士殿は実に聡明だ。自分の可能性というものを理解している」
「可能性だと?」
「何もできずに火炙りにされるのが悔しくて、『どうせ死ぬのなら一矢報いてやろう』と突っ込んで、やっぱり太刀打ちできなくて火達磨になる。そんな可能性」
「なんにしろ俺を殺す気ですか、そうですか!?」

 抗議に応えるかのようにチェスターの攻撃が降り注いでいく。回避と反撃に必死になっている慧卓には分からないが、実際にはチェスターも自身の魔力を制御するのに四苦八苦しているのだ。暴力的ともいっていい魔力の波動が頭や身体の芯を縦横無尽に駆け巡っており、火球を連続で放っていかないと不快感が溜まる感じがするのである。今は獲物で遊ぶ多幸感のためにそれを我慢出来ているのだが、限界が来たら一体どうなるかは予想しえない。危惧を抱えてもなお、状況が自分に優位なのが唯一の安堵の源と
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