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王道を走れば:幻想にて
第五章、その1の3:狂王の下僕
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か老人は身じろぎもせずにそれを待ち、振り翳された龍の爪を、魔術による透明な障壁で受け止めた。補助魔法の『障壁』の魔術であり、全力で振り抜かれたであろう龍の爪をがっしりと防いでいた。
 障壁の内でにたにたと嗤う老人を見てか、龍は憤激し、更にもう一度手を振り被った。老人はそれを見て、正確にはそこに収縮する魔力の流れを見て、笑みを俄かに控える。再度、爪と障壁がぶつかり合うが、二秒も経たぬうちに障壁に罅が入り、その勢いのまま障壁が粉砕された。暴虐の爪が光のような速さで輿を捉え、地面もろとも破壊したのだ。土煙が一気に巻き上がって視界を占有し、遠くでは輿の一部がからからと吹っ飛んでいく音が聞こえた。
 見事輿を打ち砕いた龍は、しかし不満げに鼻息を漏らしていた。その爪に、人肉特有の生ぬるく柔らかな感触を感じなかったのだ。打ち砕いたその場所よりもさらに後方で、気配が集っているのを悟る。煙が晴れていくと、老人ら一同が勢ぞろいしているのが見えた。

「ふむ。私を輿から下ろすとは大した力だ。よかろう。ならば私も少しばかり気張るとしようか。ほら、出来損ないども。仕事だ」
『すべてはマティウス様のために』

 言葉と共に老人の傀儡が動き出す。それぞれが、半透明な青白い光を纏った得物を『召喚』し、地を駆けて、或は宙を浮遊して龍に迫っていく。
 面倒だといわんばかりに、龍は身体を反転させて尻尾をふりぬき、家屋や瓦礫を巻き込みながら相手を狙う。地上の三人ばかりを狙った一撃は、しかし手応えが皆無であった。一人が尻尾に得物を突きさしてしがみ付き、後の二人は当たる直前に忽然として姿を消した。直後、龍の翼の直上にその二人が、あたかも空間を潜り抜けたかのように出現し、落下しながら得物をまっすぐに突き立ててきた。青白い刃が鱗をすり抜けて、直接血肉へと到達した。龍は驚いてにそちらへ目を遣らんとしたが、中空の者達から発された破壊魔法、氷の柱のようなものを受けて貯まらず怯んだ。

「ちなみにな、この出来損ない一人一人が生前ではやり手の魔術士だ。いかに龍とはいえ苦戦するだろう。せいぜい足掻いて、愉しませろよ?」

 ーーーほざけ、人間め。全員食らいつくしてやる。

 咆哮しながら龍は翼を大きく広げ、ばさばさと羽ばたき始めた。肉を抉る二人は危難を逃れるため先程と同じように消え、尻尾にしがみ付いていた男は瓦礫に叩き付けられて、ペースト状となってしまった。
 老人、マティウス=コープスは、ふつふつと湧き上がる探求心を抑えられぬように、ねっとりとした息を漏らした。傀儡の一体を失っても彼の精神に動揺は無い。それどころか龍の底力というものを間近で見られることに、心より喜んでいるようであった。



ーーー宮殿内にてーーー



 煙で蟠っている中空を、幾つもの特大の火球が突き
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