第五章、その1の2:邂逅、再び
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ぽたぽたと、水が撥ねる音がする。それは天井の隙間から生えた、今にも朽ちそうな木の根っこより落ちる雫であり、薄暗い通路に木霊するものであった。何と形容すべきか分からぬ動物の饐えた死臭のようなものを感じながら、リコは厳しい表情で慧卓の到達を待っている。その息は大分落ち着いているのだが、足も重たそうに投げ出されており、それまでの道中の困難さを予想させた。
「酷い道だ・・・よく倒壊しないよな」
今にも崩れそうな壁面を見ながら思う。この遺跡の内部は惨憺たるものであった。風化と劣化の嵐に晒されて、石は朽ち、鉄は赤黒く錆びてしまっている。かつての荘厳な繁栄とは正反対の様相だ。また通路のあちこちで植物の侵食が拝見可能であり、こうして天井にも何かの根っこが張っているのだ。たまに、ちうちうと、鼠の泣き声のようなものが木霊してくる。こんな辺鄙な場所でも彼らは逞しいのだなと、リコは感心する。
いい具合となっている瓦礫に腰掛けて一休みしていると、『ごごご』と、何かを持ち上げてずらす音が聞こえた。松明を持ってそこへ近づくと、いつの間にか出来ていた床の穴から慧卓が現れて、床のタイルを持ち上げて押し退けているのが見えた。どうやら彼は地下を通って此処まで来たようだ。彼は廊下によじ登るとタイルを元に戻し、用心深く床に耳を当てた。
「・・・何してるんですか、ケイタクさん」
「・・・何って・・・さっきまで逃げてたんだよ、鼠の大群から」
「そうですか。よく逃げきれましたね」
「どうかな。なんかまだ気配がするんだよなぁ・・・」
顰められた顔を見るに床越しに物騒な響きが聞こえるらしい。灰色で寸胴の生き物が一気に群がって追いかけてくるのは、さぞ肝を冷やす体験であっただろう。
「あまり顔を近づけていると、耳を齧られますよ。それよりもこっちに来て下さい。さっき凄いものを見付けたんです。いつまでも鼠に構っている暇なんかありませんよ?」
「分かったって。何が見つかったんだ?」
リコは慧卓を連れて道を進む。赤みがかった松明の光がざらついた石壁や、破損した床にできた小さな水たまりを照らした。段々と、壁面に何かで刻まれた模様のようなものが見られてくる。それは椅子に座った人や、杖を掲げる者達、大きな鳥とひれ伏す人々などを描いているようにも見える。それを説明するかのような文字も刻まれている事から、おそらくこれは過去の政を記しているのだと推測できた。
「これが見せたいものか?別に不思議でもなんでもないぞ?」
「まさか。ただの石版なんか面白くもなんともないじゃないですか。あれが、僕が見せてたかったものです」
そういってリコは通路の最奥を指差した。松明の淡い光がそれを露わとする。
それは重厚な一枚の大扉であった。僅かな隙間からは背筋が冷えるような
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