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王道を走れば:幻想にて
第五章、その1の2:邂逅、再び
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ら行けっ!俺を信じろっ!!」

 リコは不満げに言葉を呑み込むと広間を走ってアダンに近寄り、肩を担いで後退していく。その間、慧卓はチェスターを睨み続け、チェスターはニタニタとした笑みを崩さなかった。その気になればアダンごとリコを始末するのも容易な事であろうに、それを態と逃がしたのは彼のプライドを窺わせた。今の自分なら卑怯な手を使わずとも勝てると言いたいのだろうか。
 体重に四苦八苦しながらも、リコはどうにかアダンを広間から連れ出す事に成功し、大門を押さえつけるように閉ざした。煤と、もやもやとした魔術の残滓が広間に立ち込める中、慧卓は二つの得物を構え直した。理論などは知らないが、手中の魔道杖から芯を温めるようなエネルギーが流れ込んでくるのを感じる。慧卓は確信をもって『魔力』の流れだと感じる事ができた。眼に見えないだけで虚空にある筈の『契約の器』が、そうであると彼に確信を持たせたのだ。
 新しい力によって、勇気が湧き起るようだ。これならば何も怖くない。

「舞台は整ったな?じゃぁ、始めようか」
「・・・最初に言っておこう、騎士殿。今の私は・・・」

 チェスターは錫杖を優雅に振る。彼の頭上に、まるでアーチを描くように幾つもの火球が生まれた。その一つ一つが先程繰り出された火球と同サイズのものであり、圧倒的な覇気を放っている。今の慧卓ならば分かる。あれには尋常でない魔力が込められている。それこそ凡人が一生を費やして練り上げるような精錬された魔力が、火球一個一個に凝縮されている。それらを一瞬で生成して、しかも中空に安定させるのは至難の技に違いないのに。

「大魔術士と同格だ」

 その自信たっぷりな台詞には、魔法の素人としても、冷汗を掻かざるを得なかった。途轍もない嫌な予感が胸を打つ中、チェスターが再び杖を振るう。途端に火球が順序よく飛び出していき、慧卓に向かって迫っていった。
 ヴォレンド遺跡において、魔術の光が交錯し始めた瞬間であった。


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