46部分:第四幕その十
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第四幕その十
「お礼をね。いいかしら」
「わしはお礼は受け取る主義だよ」
ちゃっかりしているフィガロらしい言葉であった。
「それは安心してくれ」
「ええ、わかったわ」
フィガロの言葉に対して頷いた。
「その言葉、忘れないでね」
「わしは記憶力もいいから」
また言うフィガロだった。
「安心してくれ」
「ちゃんと言ったわよ」
「うん」
あえて強調して問い返すスザンナだった。フィガロはまだ気付いていない。
「そのお礼は」
「お礼は」
「これよっ!」
こう言っていきなり平手打ちだった。また随分と見事に決まってしまった。何とか音は立てないように手袋をしていたのがよかった。
「これがお礼よ」
「何とっ」
「もう一つっ!」
平手打ちが続く。もう一発、往復でフィガロの頬に決まった。
「それにもう一回!」
「まだか!」
「何度でもしてあげるわ!」
「わかった、わかったよ」
四発程度受けたところでやっと降参するフィガロだった。
「スザンナ、わかったから」
「目が覚めたわね」
「よくね」
こうスザンナにも答える。
「わかったよ。本当に」
「わかったらいいわ」
スザンナもここでやっと勘弁したのだった。
「わかったらさあ」
「御免」
頭を下げたのだった。
「疑って悪かったよ。君はわしだけを見ているんだな」
「今だけじゃなくてずっとよ」
こう言葉を加えさせたのだった。
「ずっと貴方だけを見ていくわ」
「それはどうも」
「わかったら」
フィガロの言葉を受け取ったうえでまた言う。
「後は最後の詰めだけれど」
「それか」
「伯爵様は何処に行かれたのかしら」
周りを見回しながらの言葉だった。
「一体全体。妙に動きの早い方ね、本当に」
「あの人もな」
フィガロはそのスザンナの横で腕を組んで首を捻った。
「浮気性さえなければな」
「男は皆そうではないの?」
「わしは違うぞ」
フィガロは自分自身については否定したのだった。
「わしはな。違うよ」
「それはわかってるけれど」
スザンナもそれは見抜いていた。だからこそ愛しているのである。
「とにかく。伯爵様は」
「ああ、どちらかな」
「何処に消えたのかしら」
それでも辺りを見回して探していたその時だった。不意に声が聞こえてきた。
「スザンナ、おいスザンナ」
「来たわ」
「何とタイミングがいい」
伯爵の声だった。二人は今の言葉を聞いてそれぞれ声をあげた。
「何処に行ったのだ?本当に」
「あら、まだ気付いていなかったのね」
スザンナは今の伯爵の言葉を聞いてにんまりと笑った。
「これは好都合だわ」
「何が好都合なんだい?」
「奥方様のことがわからなかったのよ」
「奥方様?」
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