45部分:第四幕その九
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第四幕その九
「少し時間を置くとするか」
「それが宜しいかと」
「よしっ」
伯爵は断を下した。
「そなたは隠れていてくれ」
「こちらにですね」
「そうだ。そして私はそこだ」
こう言って別の場所に向かう。
「後でそちらに行くからな。それではだ」
「わかりました」
こうして二人は別々の場所に隠れた。二人が隠れるとフィガロは場所を変えておりそこで一人密かに地団駄を踏んでいたのであった。
「さて、ヴィーナスを捕まえよう」
ギリシア神話を話に出していた。
「そのマルスと共にな」
神話ではヴィーナスの間男であり愛人はマルスということになっている。マルスにとっては甚だ不本意な話ではあるが。そうなっているのである。
「だからだ。網を用意してな」
「ちょっとフィガロ」
しかしその彼のところに来たスザンナが声をかけたのだった。
「もう少し静かに」
夫人の声色を使っている。
「見つかるわよ」
「奥方様ですか?」
「ええ」
服が同じで声色を使っているので闇夜の森の中ではわからないのだ。
「そうよ」
「いい時にここに」
「いい時に?」
「はい、実はですね」
静かにならずに話すのだった。
「大変なことになっています」
「大変なことに」
「伯爵様とスザンナがです」
「あの二人がどうしたの?」
「お考えの通りで」
今はこう言うだけだった。
「まことに悲しいことにです」
「もっと小さい声で」
感情が出てしまって夫人の声色は忘れてしまった。
「ここから動かないから、私は」
「左様で」
「復讐したいのね」
「はい・・・・・・って!?」
フィガロもここで気付いてしまったのだ。
「まさか」
「まさか?」
「スザンナ!?」
闇夜の中で彼女を指差して言った。
「まさかとは思うけれど」
「しまったわ」
ここでやっと声色を忘れていたことを思い出したのだった。
「声が」
「やっぱりそうか」
ここで確信したフィガロだった。
「スザンナか。やっぱり」
「ええ、そうよ」
「何でまたこんなことに」
(答える前に)
しかしスザンナは今まで散々聞いていたフィガロが自分を不実だと確信していた言葉に内心かなり怒っていたのであった。それでだった。
(この人を懲らしめてやるわ)
(またどうしてだ)
フィガロも事情がわからない。
(スザンナがここに)
「いいかしら」
「ああ」
「一つお礼がしたいのだけれど」
「お礼!?」
「ええ、そうよ」
内心の憤りを今は隠している。
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