1-2話
[7/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
いもので…切ないもので…忘がたいもの……。
男の子のそれは、無意識の表面上に現れる程度のものだけど…あれと似た『目』をずっと探し求めているからわかる。
過去にその目をしていた者は歪みだった。
ならば、アタシの前にいるこの子は―――?
「あ…―――」
男の子は何か言いかけようとした。
だが…それが紡がれる前に―――。
「っ―――」
足元が浮いた。
「っ、あ…!!」
アタシ達の、視線の邂逅を遮るように浮遊感が不意を衝いてきた。
それと同時に、旅客機を“上下”に揺らすような激しい振動が襲う。
これは…先ほどのモノとは違う境界の一線を越えた瞬間だった。
「ギャアアァァーッ!!」
「イ、ヤアァァァァ!」
「落ちてるッ! 落ちてるよっー!!」
「助けて! 誰か、助けてぇっ!!」
誰もがこの現象を直感的に悟っただろう。
視覚に寄らずにも、体が感じる異常が否応なく連想させる。
自重が不安定なほど軽くなり、重力に引っ張られながらも下へと流され落ちるようなこの体感は…墜落。
それはつまり―――。
巨大な鉄の塊が空を飛翔するほどの力が…重力に逆らって宙に留まらせるはずのその均衡が―――崩れたのだ。
落ちていく。
遥か上空から地上へと叩きつけられる…あまりにも単純な死の形。
突き付けられるイメージに、人々は恐れ戦く感情一色に染まった。
耳が痛くなるような数と音量の悲鳴が多重奏となって響く。
もはや、一刻に猶予もなかった。
「―――!」
少年の事は頭から追い出し、翻して弾けるように駆け出した。
体は可能な限り低く這い、足だけでなく、手をも使って四肢を操って俊敏な獣のように動く。
入り組んだ茨のように乗客の間を縫えば、そこには非常口があった。
通常ならこの状況で開くべきない扉。
たしか、これが開くと一緒になって滑り台のバルーンが展張するというものだったが…構う事はなかった。
操作すると、重厚な開閉音はしなかった。
耳がつんざくような風音によってかき消されたからだ。
「くっ…」
機内の空気が吐き出されるような気流に、不安定な足元から吹き飛ばされてしまいそうになる。
思いの外、浮遊感を相手にしながらだと姿勢制御もままならない。
前髪も暴れるようにはためいて目を開けるのを妨げる。
「―――、――」
心を落ち着かせ、繋がった外気にアタシは身を任せた。
そして、意識を伸ばす。
意識を宙に…いや、隙間なく満たす外界へと浸透させる。
意識は空気へ、大気へ、空へと…天空へと、その領域を広大なほどに展開する。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ