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フィガロの結婚
31部分:第三幕その八

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第三幕その八

「子供がいたのも知っていたけれど」
「それでもですか」
「想像もしなかったわ」
 これはその通りだったのだ。
「本当に。世の中不思議なものね」
「全くです」
「それでよ」
 夫人はここまで話すと話題を変えてきた。
「スザンナ。それでね」
「はい」
「あの人とはそのままね」
「はい、そうです」
 静かに夫人の言葉に応えて頷くのだった。
「夜に庭で」
「わかったわ」
 夫人はまずはそれを聞いて納得した顔になった。
「それじゃあ」
「どうされるのですか?」
「これから言うことを書いて」
 こうスザンナに言うのだった。
「これから。いいかしら」
「私がですか!?」
 スザンナは夫人の言葉の意味がわからず目をしばたかせた。
「奥方様ではなくて」
「貴女よ」
 しかし夫人はそのスザンナに対してまた言うのだった。
「貴女が書くのよ」
「またどうして」
「いいから」
 穏やかに笑ってスザンナに書くようにまだ言う。
「私の言うことを聞いて。いいわね」
「はい。それでは」
「私が責任を持つから」
「奥方様がですか」
「貴女が書いて責任は私」
 少し軽めだが知的で気品のある言葉で述べた言葉だ。
「それでいいわね」
「奥方様がそこまで仰るのなら」
「わかってくれたわね。じゃあ早速書きはじめましょう」
「それでは」
 こうしてまず書くものが用意されスザンナは夫人の机に座らされた。夫人はその側に立ってそのうえでスザンナに対して言うのだった。
「まずは」
「まずは」
「そよ風に寄せて」
「そよ風に寄せて」
 スザンナは夫人の言葉のまま書く。
「そよ風甘く」
「そよ風甘く」
「西風が吹く今宵」
「西風ですね」
「ええ」
 スザンナの問いに頷いてみせる。
「西風がいいわ。雰囲気が出るから」
「そうですね。それで庭の何処に」
「庭の森の松の木の下がいいわね」
「そこですね」
「ええ、そこよ」
 夫人は少し考えたが結局はそこにしたのだった。
「そこにするわ」
「はい。それでは」
「後は。貴女が書いて」
「わかりました。それでは」
 こうして手紙が作られた。スザンナは書き終えた手紙を丁寧に折り畳んだ。そのうえでまた夫人に対して尋ねるのだった。
「それで奥方様」
「何かしら」
「封はどうしますか」
「ああ、それもあったわね」
「はい」
 このことも夫人に告げたのであった。
「それですけれど」
「もう考えてあるわ」
 夫人はすぐに答えてきた。

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