劉禅、身投げする
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俺は今、成都城の城壁の端に追い詰められている。俺を追い詰めているのは、関羽など歴戦の勇者達だ。
「劉禅殿、おとなしく捕まってください」
見事な黒髪を靡かせながら、関羽が俺に詰め寄る。正直言って、勝てる気がしない。関羽一人でも厄介なのに、さらに近くには隙あらば何時でも俺を捕らえようと、張飛も控えている。
「往生際が悪いのだ。早く降参するのだ」
張飛がそう主張する。残念だけど、俺はここで捕まるわけにはいかない。こんな馬鹿げたことでこいつらに捕まってたまるか。
しかし、絶体絶命な状況に変わりは無い。少し離れた所では、天の御使いを自称する北郷一刀がうっすらと笑みを浮かべて俺を見ている。
「おいおい、いい加減諦めろよ、『烈』」
北郷が俺の真名を言う。挑発行為だと解っていながら、そのことに俺は逆上した。
「お前なんかに真名を預けた覚えはねえ!」
俺は持っていた剣を北郷に投げつける。北郷は多少驚きながらも剣を交わした。これによって俺の身を守るものは一切無くなってしまった。
「劉禅殿、覚悟っ!」
関羽が俺に迫る。俺は関羽に背を向け、城壁から飛び降りた。
*****
俺は中山靖王の末裔として、この世に生まれた。と言っても、俺自身、何かを自覚していたわけではない。ただ、漢の再興を目指す劉一族の長男として生まれた為、幼い頃から戦乱を間近に見る機会が多かった。
そんな俺に、父はいつもこう言っていた。
「烈、桃香を支えてやるんだぞ」
アレは少し残念な子だからな、と父はいつも言っていた。桃香とは、俺の姉の事だ。正直、弟である俺から見ても、頭の中身が平和ボケしているとしか思えない。何せ、自分の目指す世界を、『皆が笑って暮らせる世の中』と言っているくらいだからな。
正直、それは天地がひっくり返っても不可能だと思う。それでも桃香は真剣だった。また、そんな姉の人柄を慕って次々と人が集まってきた。
(この姉なら、もしかしたら――)
一時期は、そんな期待を密かに持っていた。しかし、そんな俺の思いを見事に潰した奴が居た。北郷一刀だ。
義勇軍を率いている頃はまだ良かった。桃香も自分の理想を実現しようと必死になっていたから。
しかし、蜀を建国してからは、変わってしまった。
北郷は周囲の女性を次々に虜にしていった。それによって蜀の重臣達の大半が浮かれ、政務が滞ってしまうようになったのだ。桃香も北郷の虜になり、四六時中ベッタリだ。これでは、建国までに犠牲になった人々に顔向けできる訳がない。
(姉上、皆が笑える世の中を作るんじゃなかったのかよ)
最早、俺の声は姉に届かなくなっていた。北郷は桃香を始めとして周囲の女と子作りに励んでばかりだ。しかも、天の御使いを自称し、自身を『ご主人様』と呼ばせている。これは劉一族を冒涜してい
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