第一部
第三章 〜洛陽篇〜
二十八 〜洛外にて〜
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身がいないではないか。無論、お前の才も、武も買っているが、私は仲間として、大切に考えているのだ。あまり、自分を軽んじるな」
「と、歳三殿……」
臭い台詞かも知れぬが、これは本心だ。
真っ赤になって照れる疾風が、何ともいじらしい。
「あの……。歳三殿も、一献」
「うむ」
杯を差し出したが、疾風は何故か、自分の杯に酒を注いだ。
そして、一気に呷ると、顔を近づけてきた。
そのまま、腕を私の頸に回し、抱き付く。
生暖かい酒が、私の口の中に流れ込んできた。
「ふふ、如何ですかな?」
「……そう来るとはな。どうしたのだ?」
「……決めたのですよ。歳三殿に……お任せします」
「良いのだな?」
「……はい」
酔いが回ったのか、疾風は少々大胆だった。
だが、それもまた、良かろう。
事が済み、二人共に臥所に横になっている。
「どうだ? 辛くはないか?」
「平気です。歳三殿に、優しくしていただいたので」
そうは言うが、疾風は少し、涙ぐんでいる。
「痛むのか?」
「……少しは。でも、これは嬉し涙です」
「……そうか。ならば、何も申すまい」
疾風の手が、私の顔に触れた。
「歳三殿」
「うむ」
「お慕い申しておりますよ。……うふふ」
今宵何度目かの、口づけを交わす。
「このまま、朝までお側にいてもよろしゅうございますか?」
「無論だ」
その背に手を回し、そっと撫でてやる。
優れた武人ではあっても、その肌は若い女子のそれだった。
「では、おやすみなさいませ」
「ああ、おやすみ」
すぐさま、安らかな寝息が聞こえてきた。
また一人、慈しむべき者が増えた、か……。
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