第一部
第三章 〜洛陽篇〜
二十八 〜洛外にて〜
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かく、座るが良い。立ったままでは話も出来ぬであろう?」
「……では、し、失礼致します」
いつになく、疾風は緊張しているようだ。
ぎこちなく、私の隣に腰掛けた。
「さあ、飲め」
「は、はい。では、いただきまする」
杯を持つ手が、震えている。
「少し、落ち着くが良い。それでは、酒が溢れてしまうぞ?」
「……大丈夫です。では」
そして、疾風は杯を一気に干した。
「……これは?」
「私の生国で造られる酒……に似たものだ。私が、義勇軍を結成した時の事、存じているな?」
「はい」
「その時に、援助を申し出た張世平の仲間に、蘇双と言う者がいる。酒を商っている者だが、どうしてもこの酒を造りたいと申してな。知る限りの製法を伝授した」
「では、この酒はその者が?」
「うむ。まだ試作品の段階故、手には入らぬが。私に確かめて欲しいと、先ほど届いたばかりだ」
「そうでしたか。そのような貴重な酒、忝うございます」
「どうだ? まだ試行錯誤の最中らしいが」
「は、はい。米の旨味が出ていて、非常に美味かと」
そう話す疾風の顔は、赤かった。
酒気のせい、だけではなさそうだな。
「そうか。少しは、落ち着いたな」
「……あ。そう言えば」
さっきまでの身体の震えは、収まっていた。
「疾風」
「はい」
「……私は、お前が望むのなら、このまま酒を飲んでいるだけでも良い。その先は、お前の意思次第だ」
「歳三殿。一つだけ、お聞かせいただけますか?」
「うむ」
疾風は杯を置き、両手を膝の上に揃えた。
「昼間、孫堅殿からの申し出を、はっきりと断ったと聞きました。何故ですか?」
「私は、美しき女子と見れば片っ端から手を出す好色ではない」
「ですが、相手はあの江東の虎。孫策殿も将来有望と見ました。歳三殿にとっては、損になる話では」
「もう止せ」
私は、疾風の言葉を遮った。
「私には、稟に風、愛紗、星、そして疾風がいる。それで十分、満ち足りている」
「…………」
「それに、将来の大望があるのならば、華琳から臣従せよと言われた時に、それを断る道理もあるまい? 奴は、間違いなく徐々に力を持つ存在、その麾下とあらば得るものも大きかろう」
「……そうでしょうな」
「私は皆と仲間がいて、民を平穏に導ければそれで良いのだ。人間、欲をかくと碌な目に遭わぬからな」
クスッ、と疾風が笑った。
「無欲と言えばそうですが。歳三殿はある意味、とても欲張りですな」
「そうかな?」
「はい。望むなら手に入るものには興味をお示しにならないのに、我らとの事を第一と。稟も風も超一流の軍師、愛紗に星、鈴々は優れた武人。それを皆、手元に置きたいなどとは」
「そうかも知れぬな。だが疾風。一つだけ、間違っているぞ?」
「間違い、とは?」
「お前自
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