一周年記念コラボ
Cross story The end of world...
終わりのプロローグ
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るようにその視線を追って───
「何を見てるんですか?蓮ちゃん」
一瞬、その言葉の意味がわからなかった。
小萌先生はナチュラルに訊いてきた。極めてナチュラルに。まるで、何言ってんのこの子は、みたいな口調で。
「え?いやだって………」
あんなにはっきりと見えるのに、と言いかける蓮に小萌先生は本来の目的を思い出したかのように、足元に散らばった本達を集めている。
「今日はですねー。珍しくみんな出かけてるのです。ミサトさんは朝から飲み会って言って、深瀬さんとかを連れて出かけちゃいました。るり子ちゃんは華子さんと住職さんとでお買い物に行ってますねー。あ、るり子ちゃんが蓮ちゃんのためにおやつを置いといたって言ってましたですよー」
間延びした先生の声を意識の端で聞きながら、蓮はフムと唸る。これで静けさの謎は解けた。
まぁ確かに、手首しかないオバケのるり子さんと、挨拶しか言わない無口な幽霊の華子さんのツーペアでは、買い物すらもままならないだろう。
アパートの隣にある昧礼寺の住職は、趣味の筋トレで極限まで鍛えた体と僧籍にある者としての禿頭──人はそれをスキンヘッドと呼ぶ──、さらには目が光に弱いためにかけているサングラスから「ターミネーター」と呼ばれているほどの人物だ。護衛役としてもうってつけだろう。
しかし、そんな蓮の思考はたちまち消し飛んだ。考えるのを止めたのではない。
考えられなくなったのだ、なぜか。
蓮はまるで、街灯に吸い寄せられる蛾のように、ふらふらとした足取りでその鏡の前に立った。
改めて見ると、かなり凝った意匠の鏡だった。枠は深い緑で、苔でも生えているように怪しく光っていて、そのくせ鏡本体は吸い込まれそうなほどに透明だった。そのなかに写る自分の姿を見ていると、湖の水面に写っているしはれを見ているような錯覚に陥る。水滴でも落とせば、波紋でも広がりそうな。
だからだろうか。蓮は手を伸ばして、その艶やかな表面に触れようとした。
特に理由はなかった。ただ、そうしなければならないと思ったから。
蓮の指先が一センチ、二センチと、ゆっくり近付いていく。鏡との間も、二センチ、一センチと縮まっていく。
そして、それに───
触れた。
小萌先生は、やっとのことで全部の本を回収した。一般人ならば、見ただけで勉学に対する興味が一瞬で失せるようなそれらを両手で抱え込む。
そして、振り向くと
「あれ?」
そこには誰もいなかった。
踊り場には、月詠小萌だけがポツンと残された。
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学校帰り。いつもどおり
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