第九章 双月の舞踏会
第六話 揺れる心
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だけでなく額も赤くしたアンリエッタが慌てて振り返ると、そこには好々爺然とした笑みを口元に浮かべるマザリーニがいた。
「な、な、ナニを―――」
「ふむ、どうやら陛下の『支え』に市民も気付きだしたようですな。確かに杖を持たず剣を腰に差した男が警護におれば目立ちますからな」
目を白黒させながらアンリエッタが何かを口にしようとしたが、マザリーニはそれを躱すように顔を窓に向けると、耳をそばだてた。マザリーニの言う通り、通りの市民たちが上げる歓声の中に、アンリエッタの知る者の名前が混じり出す。
真っ赤な顔をして何やら文句を言い放とうとしたアンリエッタだが、マザリーニの声を合図にしたように、自分の耳にある人物に対する歓声が入ると、悔しそうに歯を食いしばった後、さりげなく窓に身体を近づけた。
「―――帰りたい」
「何を言っているんだね隊長」
たった五人の騎士隊であるが、士郎が隊長を務める『水精霊騎士隊』も、女王の警護を行っていた。
アンリエッタが乗る馬車を警護する騎士隊は他にもおり、士郎が率いる水精霊騎士隊の配置箇所は、王宮の序列に従って最後尾に位置している。
警護とは言っても、新設された騎士隊、それも隊長を含めて五人しかいない水精霊騎士隊に警護としての力は全く期待されておらず、お披露目のためにただ参加しているようなものであった。
「いや、実は今日は予定があったんだよ」
「予定?」
士郎の声に、馬に乗って後ろをついて来ていたギーシュが首を傾げた。
「ああ。料理長のマルトーがな、珍しい材料が手に入ったから新しい料理に挑戦しようと話してたんだが」
「おいおいシロウ。名誉ある女王陛下の警護よりも料理長との料理研究の方が大切って、君は言うのかい?」
ギーシュの声に、士郎はぽりぽりと頬を掻くと、後ろを振り向き苦笑いを浮かべた。
「いやなに、最近俺が貴族になったことでマルトーとギクシャクしてたんだが、この間一緒に食事をとりながら話しをしてやっと落ち着いてな、それで今日、料理でもしながら色々話をしようとしてたんだが……」
「だけどこれも仕事だし、仕方がないんじゃないかい?」
「まあ。マルトーも事情を説明したら笑って許してくれたんが、な」
緊張感もなくギーシュと会話する士郎たちに視線を向ける者たちは、実は結構いた。
最後尾を進む水精霊騎士隊であったが、観衆からの視線はどの騎士隊よりも集中していたのだ。
理由はいくつかある。
まず目を引くのは、水精霊騎士隊の隊長である士郎が身に纏う、銀糸でシュヴァリエの紋が縫い付けられた目にも鮮やかな緋色のマント。燃え盛る炎のような赤いマントに目を奪わ
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