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剣の丘に花は咲く 
第九章 双月の舞踏会
第六話 揺れる心
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と知らせた。
 人払いされ、道の端に追いやられた人々は、苛立ちながら険しい死線を通り過ぎる馬車に向けたが、御者台の横についた百合の紋章に気付くと、先程までの苛立ちを忘れ歓喜の声を上げ始める。

「うおおおぉぉっ! 女王陛下万歳ッ! 女王陛下万歳ッ!!」
 
 白い馬車とは、トリステイン女王アンリエッタが乗る馬車であった。
 高らかに上げられる観呼の声に応えるように、馬車の小窓出した手を振るアンリエッタ。重税などでアンリエッタに対する不満が募っていた国民であったが、戦争が勝利に終わると共に税率が下がり、自分たちの生活が潤ってくると、募りに募っていた筈の不満を、現金なことにあっと言う間に霧散させていた。

「清貧女王アンリエッタ万歳ッ!」

 観衆の声に新たな呼び方が加わる。
 それが耳に入ると、アンリエッタが振る手が一瞬ピタリと止まったが、直ぐに何ごともなかったように動き出す。

 清貧女王。
 それは、祖国のために私財を投げ打ったアンリエッタを讃えた言葉だった。だがアンリエッタにとっては、それが自分を讃えた声であっても、嫌なものであり、清貧女王と呼ばれる度に、眉間に皺が寄っていく。元々私財を投げ打った話は広めるつもりはアンリエッタには全くなかったのだが、ではどうしてその話が広まったのかというと、それは財務卿から話を聞いたマザリーニが少しでも王室の支持になるのならばと噂を積極的に広めたのだ。
 
「不機嫌なのは分かりますが、顔には出さないように気をつけてください」
「……表情には出しませんからご心配なく」

 マザリーニが隣でポツリと呟いた言葉に、アンリエッタは顔を向けることなく応える。

「今の王家に、手段を選べるほどの余裕がないことは分かっています」
「分かっているのならば結構です」
「―――ですが」

 窓を隠すカーテンの端を握ると、アンリエッタは眉根に皺を寄せた。

「それと納得出来るかは別の話です」
「納得出来なくても理解しているのならば結構です」

 淡々としたマザリーニの声に、アンリエッタは口の端を皮肉げに曲げ笑った。

「使えるものなら何でも使うが政治の基本……ですか、讃えられ尊ばられながらも実態は随分と汚いものですね」
「何事も表もあれば裏もあります。王家も政治も……そして人も……」

 隣から聞こえた寂しげな声にアンリエッタが顔を横に向けると、マザリーニが疲れたように顔を俯かせていた。

「政治とは人の欲望が渦巻く深く暗い海の底のようなもの。政治に深く関われば関わるほど、人の欲望に深く触れることになります。陛下が今いる場所は、まだ浅瀬でございますが、これから否応なく深く触れていくことになります」

 まるで顔に浮かんだ表情を隠すように、皺が寄った年経た手をかざすマ
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