崑崙の章
第14話 「おはようございます、桃香様」
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に行くのを躊躇われていた。
お二人の間に何があったのか、私も知らない。
だが、桃香様はご主人様に顔を見せるのを躊躇い、それでもご主人様に会ってその日一日、何かをお話されていた。
その翌日からだった。
桃香様が、人が変わったように勤勉になられた。
いや、違う。
”元に戻られたのだ”。私や鈴々が、桃香様に出会ったあの頃。
桃園で、三人で誓った頃の桃香様に。
その眼は大望を抱き、常に民のために人生を賭けようとしていた、あの大徳の君に。
今の桃香様は、三人で旅するうちに何もできない事に絶望する前の眼だった。
力が足りない事を嘆き、疲れ、占いなどに一縷の望みをかける前の眼だった。
自分で何かしよう、という強い意志の眼差しだ。
その瞳に、私と鈴々は義姉妹の契りを交わしたのだ。
その姿が眩しい。
桃香様がいなければ、今にも叫びたい。
これが、我らが主。
劉備玄徳様なのだ、と。
「……しゃちゃん、愛紗ちゃん! ねぇってば!」
「……はっ!? はい!?」
「もー……何度も呼んでいるのにぃ。愛紗ちゃんこそ休んだほうがいいんじゃないの?」
「こ、こここここここ、これは失礼を……」
い、いかん。
思わず物思いに耽って、桃香様のお声に気がつかなかった。
この関雲長、一生の不覚っ!
「ほら、愛紗ちゃん、あそこ……あの荷物一杯で必死に駆けてくる馬」
「は……うん? あれがどうかしましたか?」
「あの馬の上に乗っているのって……華佗さんじゃないのかな?」
「華佗?」
華佗……華佗……華佗……ああ。
思い出した。
ご主人様の兄君である、一刀様の治療を任せた医師だったはず。
「そういえば……はて、なにを焦っておいでなのか?」
「とりあえず挨拶してみようか。おーい! 華佗さーん!」
桃香様が必死に馬を奔らせる華佗に声をかける。
その声に気付いたのだろう。
こちらへと馬を方向転換させて、向かってくる。
全速力で。
「……なんであんなに急いでいるんだろ?」
「はて……?」
桃香様と二人、互いに首をかしげる。
すると間をおかずに、華佗が我々に向けて叫んだ。
「急いで漢中へ戻れ! 黄巾の残党が漢中に向かってきている!」
「「!?」」
「やつら、今日中には漢中に辿り着くぞ! 急ぐんだ!」
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