第5章 契約
第71話 名前
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そして、
「今度は、私の前から簡単に消えないで欲しい」
感情を表す事のない……普段の彼女からは考えられないような真摯な表情で、そう伝えて来るタバサ。
しかし……。
「簡単に消える? 俺がタバサの前から?」
思わず、少し裏返ったような声で聞き返して仕舞う俺。
何故ならば、先ほどの彼女の言葉はそれぐらい、唐突で、その上に意味不明な願いだったと言う事です。
いや、それ以前の部分。『今度は』の部分も、かなり奇妙な表現でしたか。
これではまるで、以前に俺が、彼女の前から簡単に去って仕舞った事が有るような内容なのですが……。
俺は、普段以上に強い視線で俺を見つめる蒼い姫を見つめた。
死の淵より生還して直ぐの状態故に、未だ寝間着姿。普段通りの紅いフレーム越しの瞳には、少し訝しげに彼女を見つめる都合四つの俺の顔が映り込んでいる。
そう言えば彼女。タバサの台詞にも、少し不思議な部分が以前から紛れ込んで居た事が有りました。そんな記憶も有るのですが……。
そんな、曖昧な記憶の中に存在する何かを掴み掛けた正にその瞬間、その俺の記憶を肯定する決定的な台詞が、彼女の口から発せられた。
「そして、何時の日にか……。何時の日にかきっと、昔のように本当のわたしの名前を呼んで欲しい」
昔のように。
その上に、本当の名前を呼んで欲しい……。
俺は、タバサの事は、タバサとしか呼んだ事が有りません。
そして、彼女は、俺にシャルロットと呼ばれる事は拒否をしました。
その時は大して気にも留めなかったけど、もしかすると、俺からそのシャルロットと言う名前で呼ばれる事に対する違和感が強かったが故の拒否だったのでは……。
そう。かつての生命の際に、俺が彼女の事を呼んで居た名前の印象が強すぎたが故に。
ましてその答えに関しても、先ほどの彼女の言葉の中に存在して居ます。
俺は、彼女の前から簡単に消えている。いや、おそらくは、簡単に人生から退場して居る。
そして、その事に対する彼女の決意も既に、彼女は口にしている。
あなたは死なせない……と。
例え、すべての事象。運命さえもが俺を連れて行こうとしても、わたしがそれを許さない……と。
あの時も今の彼女と同じ、真摯な瞳の中心に俺を映しながらそう誓いの言葉を口にしました。
「了解」
俺は大きく、そして強く首肯いた後、簡潔に答えを返した。
それに、先ほども言ったように、俺は簡単に死にはしません。当然、無敵でも無ければ、最強でもない。
まして、不死などと言う属性も持って居る訳では有りませんが。
但し……。
正直に言うと彼女が今、言って居る事の意味は判ります。彼女が言って居るのは、輪廻
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