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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第71話 名前
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挙げるのも当然重要な意味を持ちます。

 まして、マジャール侯爵の元に預けられていた王子と共に、表向きには行方不明状態と成って居るオルレアン大公の遺児、シャルロット姫が公式の場に同時に登場して、ヴェルサルティル宮殿に入城すると言う事の意味も大きいですから。
 国内外の貴族たちに対するアピールとしても……。



 一陣の風の如きジョゼフ王の来訪は終了し、次に続く空白が訪れた。

 そして、跪いたままで有った俺が立ち上がると同時に、椅子に座った姿勢で膝の上に開いた和漢により綴られた書籍に視線を上下させていた少女もまた立ち上がる。
 但し、双方の立ち上がった理由が違った。

 俺は、その場で振り返り、寝台の上に上体のみを起こした姿勢で俺を見つめて居る蒼い少女に視線を移し、
 椅子から立ち上がった紫の少女は、一瞬だけ俺にその清澄な湖の如き瞳を向けた後、そのまま開いた状態と成って居る入り口へと真っ直ぐに進み……。

 最後に僅かな躊躇いのみを残し、しかし、後ろ手に扉を閉じる事により、この部屋の主に俺を預けて出て行って仕舞った。



 俺と彼女以外のすべての登場人物が過ぎ去ったこの部屋は、魔法と、締め切った厚手のカーテン。分厚い壁と豪奢な扉に守られた、二人だけの世界が訪れていた。
 そう。春の出会いからこの夏まで続いていた、二人だけの生活の空間が……。

「王子の影武者役など演じる必要はない」

 何故か懐かしい、普段通りの口調で小さく呟くタバサ。
 そして、この言葉が彼女から発せられるのは当然。

 彼女は大貴族で在るが故に、自らの家族をすべて失ったのですから。
 更に、最後に残った家族。自らの妹は今のトコロ行方不明。その上、現実世界での彼女は何モノかに操られている事は確実な雰囲気。
 そのすべてが、彼女が生まれた家がガリア王家に繋がる大貴族で在ったが故に起きた悲劇。
 この上、自分がその家を継ぐだけなら未だしも、俺まで余計な厄介事に巻き込まれようとしているのですから。

 彼女は俺の事を自らの正面に見据えたままで、

「まして、名を与えられる必要などない」

 ……と、そう続けるタバサ。
 彼女は知って居るのか。俺のような存在が他者より名を与えられる、……と言う事の重要性を。

 俺があのガリアの王に名前を与えられると、俺はガリアの王を本当の親に対するように孝を示し、自らが認めた王に対するように忠を示さなければならなくなる。
 そう成れば、俺は俺の望まない仕事を熟さなければならなく成り……。

 今、俺が有して居る龍や、仙人としての徳を失う可能性もゼロでは有りませんから。
 そして、それが名前を与えられると言う事に対するルール。これを無視する事は、龍で有る俺には出来ません。

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