第二章 風のアルビオン
第一話 王女と依頼
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無く、あるのは、年に似合わない苦悩と、深い憂いの色である。
王女は当年とって御年十七歳。すらりとした気品のある顔立ちに、薄いブルーの瞳、高い鼻が目を引く瑞々しい美女であった。細い指の中で、水晶のついた杖をいじっている。王族である彼女もまた、メイジなのであった。
街道の歓声も、咲き乱れる綺麗な花々も、彼女の心を明るくはしない。彼女は深い深い、恋と政治の悩みを抱えているのであった。
隣に座ったマザリーニ枢機卿が、真っ白な口ひげを、骨ばった指でいじりながら、そんな王女の顔を見つめた。白い髪が生える頭に、坊主がかぶるような丸い帽子をかぶり、灰色のローブに身を包んだ痩せすぎの四十男である。
彼の姿がまるで老人のようなのは、先帝亡き後、一手に外交と内政を引き受けた激務が原因であった。
政治の話をするため、彼は先ほど自分の馬車から降り、王女の馬車に乗り込んでいたのだ。
しかし、彼の努力は報われる事はなく、王女はため息をつくばかりでまったく要領を得ない。
「……これで本日十三回目ですぞ。殿下」
困った顔でマザリーニは言った。
「なにがですの?」
「ため息です。王族たるもの、無闇に臣下の前でため息などつくものではありませぬ」
「王族ですって! まあ!」
アンリエッタは驚いた顔で言った。
「このトリステインの王さまは、あなたでしょう? 枢機卿。今、街で流行っている小唄はご存知かしら?」
「存じませんな」
マザリーニはつまらなそうに言った。それは嘘であった。彼はトリステインだけでなくハルケギニアのことならば、火山に住むドラゴンの鱗の数まで知っていたが、都合が悪いことから、知らない振りをしているだけであった。
「それなら、聞かせてさしあげますわ。トリステインの王家には、美貌はあっても杖がない。杖を握るは枢機卿。灰色帽子の鳥の骨……」
マザリーニは目を細めた。『鳥の骨』などと王女の口から自分の悪口が飛び出たので、気分を害したのであった。
「『美貌はあっても杖がない……』。ぷっ、自分で美貌って」
マザリーニが横を向きながら、小馬鹿にするような口調で言うと、アンリエッタは顔を真っ赤にさせ、マザリーニにくってかかった。
「べっ、別にわたくしが作ったわけではっ……」
「ええ、わかっていますとも。まあ、それだけ元気があれば十分ですね」
「あっ……」
マザリーニが苦笑しながら言うと、マザリーニがわざと怒らせたということを理解したアンリエッタは、どこかバツの悪い顔をしながら顔を俯かせた。
「臣下がそのようなことを言ってよろしいのですか?」
「そうですな、では、殿下も一緒に言葉遣いを改めましょう」
「うっ……」
アンリエッタは、不貞腐れたような顔を見せないよ
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