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剣の丘に花は咲く 
第二章 風のアルビオン
プロローグ 夢
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 か細く、震えた弱弱しいその声が、士郎のものだとルイズは最初気付くことが出来なかった。聞こえてきた声は、今の士郎とは少し違うが、確かに自分の使い魔である士郎の声であった。

 でも……本当にシロウなの?

 だが、ルイズには信じられなかった。何故ならば、今、目の前で蹲っている男は、自分の今知るシロウとは、あまりにも違い過ぎたからだ。
 身長は蹲っているため判然としないが、百七十センチ前後だろうか、鍛えられた体を黒い外套で身を包み、肌の色は少し日焼けしたぐらいの色で、髪の色は薄い赤錆色だった。
 似ていると言えば似ているが、外見が違っており、声を聞くまで、ルイズは気付くことが出来なかった。
 赤い戦場で一人蹲る士郎は、何かを抱いているようだ。
 
 女の……人?

 士郎が抱いているのは、全身を血で濡らした女性であった。
 一目見て死んでいるとわかる女性を抱きしめ、士郎は呆然と紅く焼けた空を仰ぎ見ている。

「もし……“世界”と“契約”すれば、救えたのか……」

 呆然と呟く士郎を見たルイズは、不意に言いようのない不安に襲われた。

 ―――っだ、ダメっ! シロウっ、いけないっ!

 得体の知れない不安に襲われたルイズは、訳も分からず必死に士郎を止めようとした。

 ダメ、ダメダメダメっ! シロウっそれはダメっ!!

 自分でも理由が分からないが、必死に士郎を止めようと声を張り上げた―――その時、焦るルイズの前を一人の女性が通り過ぎた。

 えっ?

 ルイズの前を横切った女性は、そのまま蹲り呆然と赤い空を見上げる士郎の背後に立った。
 顔は分からない。ルイズにはその女性の背中しか見えない。 
 赤い世界の中でも、艶やかに輝く黒い髪を腰まで伸ばし、赤いトレンチコートを身に纏った女性は、凛とした立ち姿で士郎を見下ろしていた。

 だ、れ?
 
 背後に立つ女に士郎はまだ気づかない。
 蹲る士郎の後ろで女性は右手を高々と掲げ、固く握り締めた拳を……思いっきり士郎の頭に振り落とした。

「ぐわっ!」
 
 急な痛みに驚いた士郎が、後ろを振り向き、さらに驚いた声をあげる。
 
「りっ、凛……何で……ここに」
「うるっさいっ! このバカっ!!」
「なっ……」

 士郎を怒鳴りつけた遠坂と呼ばれた女性は、振り向いた士郎の襟首を掴み上げると、無理やり立たせ、その顔を再度殴りつけた。

「がっ」
 
 赤い大地に転がる士郎を見下ろしながら、赤い女性は怒りに声を震わせている。

「士郎……あんた、自分が何を言ったか分かっているの……」
「な、何って……?」
「っ!! 分かっているか分かっていないのか聞いてんのよっっ!!」

 怒声は空気を震わせ、士郎は呆然となる。
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