第二章 風のアルビオン
プロローグ 夢
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
か細く、震えた弱弱しいその声が、士郎のものだとルイズは最初気付くことが出来なかった。聞こえてきた声は、今の士郎とは少し違うが、確かに自分の使い魔である士郎の声であった。
でも……本当にシロウなの?
だが、ルイズには信じられなかった。何故ならば、今、目の前で蹲っている男は、自分の今知るシロウとは、あまりにも違い過ぎたからだ。
身長は蹲っているため判然としないが、百七十センチ前後だろうか、鍛えられた体を黒い外套で身を包み、肌の色は少し日焼けしたぐらいの色で、髪の色は薄い赤錆色だった。
似ていると言えば似ているが、外見が違っており、声を聞くまで、ルイズは気付くことが出来なかった。
赤い戦場で一人蹲る士郎は、何かを抱いているようだ。
女の……人?
士郎が抱いているのは、全身を血で濡らした女性であった。
一目見て死んでいるとわかる女性を抱きしめ、士郎は呆然と紅く焼けた空を仰ぎ見ている。
「もし……“世界”と“契約”すれば、救えたのか……」
呆然と呟く士郎を見たルイズは、不意に言いようのない不安に襲われた。
―――っだ、ダメっ! シロウっ、いけないっ!
得体の知れない不安に襲われたルイズは、訳も分からず必死に士郎を止めようとした。
ダメ、ダメダメダメっ! シロウっそれはダメっ!!
自分でも理由が分からないが、必死に士郎を止めようと声を張り上げた―――その時、焦るルイズの前を一人の女性が通り過ぎた。
えっ?
ルイズの前を横切った女性は、そのまま蹲り呆然と赤い空を見上げる士郎の背後に立った。
顔は分からない。ルイズにはその女性の背中しか見えない。
赤い世界の中でも、艶やかに輝く黒い髪を腰まで伸ばし、赤いトレンチコートを身に纏った女性は、凛とした立ち姿で士郎を見下ろしていた。
だ、れ?
背後に立つ女に士郎はまだ気づかない。
蹲る士郎の後ろで女性は右手を高々と掲げ、固く握り締めた拳を……思いっきり士郎の頭に振り落とした。
「ぐわっ!」
急な痛みに驚いた士郎が、後ろを振り向き、さらに驚いた声をあげる。
「りっ、凛……何で……ここに」
「うるっさいっ! このバカっ!!」
「なっ……」
士郎を怒鳴りつけた遠坂と呼ばれた女性は、振り向いた士郎の襟首を掴み上げると、無理やり立たせ、その顔を再度殴りつけた。
「がっ」
赤い大地に転がる士郎を見下ろしながら、赤い女性は怒りに声を震わせている。
「士郎……あんた、自分が何を言ったか分かっているの……」
「な、何って……?」
「っ!! 分かっているか分かっていないのか聞いてんのよっっ!!」
怒声は空気を震わせ、士郎は呆然となる。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ