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剣の丘に花は咲く 
第九章 双月の舞踏会
第五話 変わる日常
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っ」

 身体に抱きついて離れようとしないメイドを、士郎は必死に引き剥がそうとするのだが、まるで猫のように引き離そうとする手を避けられてしまう。そんな風に士郎が四苦八苦している隣で、メイドとのやり取りの一部始終をニコニコと笑って眺めていた女性は、その笑顔を悪戯っぽいものに変えると、突然「えいやっ」と、掛け声を上げると勢いよく抱きついてきた。

「うふふ……ん〜ちゅ」
「あ〜っ、よしならもう一回もう一回っ! ちゅ〜!」
「っおいっ!」

 まるで幼い子供のように、両脇から抱きつかれる士郎。抱きついてくるのがただの子供だったら問題ではないのだが、実際に抱きついているのは妙齢の女性二人だ。実際問題色々とやばい。具体的にどうヤバイのかと言うと、世間体もそうだが、それ以上にこういう時に限って会いたくない人が来ることを、士郎は経験的に分かっていた。もはやそれは未来予知に近いかもしれない。厄介なのは、二人が悪意を持って抱きついているわけでもないため、無理矢理引き離すことが出来ないというところだ。どんどんと高まる嫌な予感に、出来るだけ早急に二人から逃げなければと、士郎が内心頭を抱えていると、

「ふ〜ん、随分と楽しそうね」
「あらあら、本当に楽しそう」

 背後から聞こえる寒々とした声により、時間切れを悟った。

「……あ〜……その」

 七万の軍勢にさえ怯まず立ち向かった士郎が、全力でこの場から逃げたいと、振り返りたくないと心の中で悲鳴を上げながらも、ゆっくりと後ろに顔を向けると、そこには、

「お、おはよう」

 何の表情も見えない顔で見つめてくるルイズとシエスタが立っていた。

「いや、これは、だな……」

 両脇に二人の女性を抱きつかせた姿という言い訳のしようもない格好のまま、士郎はこの場から生き残れる方法を必死に考え始める。蓄積された数多の経験は、「これは完全な詰みだ。諦めろ」と無情にも言い放っているが、諦めては全てが終わりだと、まだ希望はある筈だと有りもしない可能性に縋りつきながら思考を巡らしている最中、ルイズとシエスタが口を開いた。

「と言うか、何やっているんですかちいねえさま(・・・・・・)
「もうっ、部屋にいないからもしかしてって思ったらやっぱりっ……もう、ずるいですよジェシカ(・・・・)ッ!」

 悲壮な覚悟と共に士郎は息を飲むが、ルイズたちの視線と言葉は、両脇にいる二人の女性―――カトレアとジェシカに向けられた。
 
「あら? ふふふ……恥ずかしいところ見られちゃったわね。どうする、ルイズも一緒に抱きつく?」
「ん? シエスタ遅かったわね、どう? 一緒に抱きつく? なかなかいい抱き心地よ?」
「なっ! ななな何を言ってるのよちいねえさまっ!」
「ジェシカっ! もう何言ってるの
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