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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百五十八話 これは戦争だ
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に笑みを浮かべた。

「或いは要塞主砲を利用しようというのかもしれんな」
「イゼルローン要塞を攻撃するという事ですか」
「うむ、要塞主砲で損害を与えたうえで艦隊による力攻めを行う、攻略の可能性は通常の力攻めよりも遥かに高いだろう。反乱軍の艦隊も出撃は難しくなるはずだ、安易に出撃すれば要塞主砲の標的になるからな」
「そうですな」

それかもしれない、根拠地として使用するよりも要塞攻略兵器として要塞を使う。要塞には要塞を以って戦うという事だ。副司令長官の言う通り艦隊を以って戦うよりは遥かに攻略の可能性は高いだろう。私もイゼルローン要塞司令官を務めた時、要塞主砲の威力の強大さには感嘆よりも溜息を吐いたことが有る。

「取り付けは何時頃終わるのかな?」
「作業には四ヶ月ほどかかるそうです。その後小官の運用試験と微調整で約二ヶ月を想定しています」
「半年か……、半年後には遠征が可能になるという事か」
「そうなりますな」
メルカッツ副司令長官が顎に手をやって考え込んでいる。

「なるほど、時間に余裕が無いな」
「ええ、半年後に遠征なら地球教への対応は遅延を許されません」
遠征の準備にはどう見ても二ヶ月から三ヶ月は必要だ。地球教への対応に手間取れば遠征の準備にも影響が出る可能性が有る。それとも要塞は準備だけなのか? 遠征そのものは未だ決まっていないのだろうか?

「遠征はもっと先だと思われますか?」
「……この時期に地球教を叩くのは遠征前に不安要因を取り除いておこうというのではないかな。だとすれば遠征の時期は年内とは行かぬかもしれんが年明け早々に行う可能性は有るだろう」
「なるほど」

遠征に出れば長期に亘って軍は国内を留守にする。つまり国内の軍事力、警察力は低下するのだ。遠征の前に不安要因を取り除いておくという副司令長官の考えには十分に根拠が有るだろう……。



宇宙暦 798年 6月 10日  ハイネセン  最高評議会ビル ジョアン・レベロ



「厄介な事になった」
トリューニヒトが手に持っていた書類を机に放り投げた。渋い表情をしている。
「どうした、何か気になる事でもあるのか」
「オーディンの地球教徒はサイオキシン麻薬を使用していたそうだ」
「サイオキシン麻薬?」

私とホアンの声が重なり思わず彼と顔を見合わせた。ホアンは信じられないといった表情をしている、おそらく私も同様だろう。
「何かの間違いじゃないのか、あれは危険だと口に出すのも愚かなくらい危険だろう」
「信徒達はそれを使って洗脳されていたらしいな。帝国は地球教は同盟でも同じ事をしている可能性が有ると警告している」

評議会議長の執務室に沈黙が落ちた。トリューニヒト、ホアン、そして私……、皆押し黙ったまま顔を見合わせている。
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