第9話「前夜」
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エヴェンジェリンは戸惑いを隠せずにいた。
「なぜだ?」
結界を破って侵入してきたバケモノが街に現れたことをタケルに報告しようとした時だった。不意に能力が回復したのだ。
もちろん、全てというわけにはいかない。この学園から出られそうにもないし、魔力も半分ほど。
だが、それでもそれはエヴェンジェリンの気分を高揚させるには十分だった。
なにせ15年もの間、ずっと魔力を失って生活してきたのだ。半分でも回復すれば御の字というやつだろう。
とりあえず念思を飛ばしてタケルにこのことを知らせる。
「たたき起こしてやる」と薄ら笑いを浮かべたエヴェンジェリンだったが、すでにタケルは気付いていたらしい。
――分かっている、後は任せろ。
と返されてしまった。その言葉に少しだけ頬がピクリと、確かに動いたのだが、彼女はやはり上機嫌のせいか、ニヤリと笑った。
「くっくっく、確かにヤツはバケモノ狩りを生業としていた用だな。私と同じか、それ以上の速さで気付きおった」
誰にも聞こえないほどに小さく呟く。
「……どうかされましたか?」
独り言を漏らしつつ笑っているマスターに、病気だろうか、と心配して茶々丸が声をかける。だが、その言葉はエヴェンジェリンに届かなかった。
「行くぞ! 茶々丸。魔力がある私の力を見せてやる!!」
すっくと立ち上がった彼女に、茶々丸もすぐに立ち上がる。
「はい、マスター」
こうして、ミッションに二人の人物が加わった。
満月の夜。
正確には満月ではないが、それでもパッと見れば満月にしか見えない程に月は満ち、不気味なほどに夜に輝いていた。
そんな夜に踊る黒き姿。死の刀と銃を手に、今宵もタケルは標的を探していた。
――まずいな。
呟き、コントローラーを見つめなおす。
敵を示しているたった1つの赤い点が動かない。正確に言えば作動しないと言うべきか。ミッションで寮を出た途端に襲い掛かられて、油断していたタケルは見事にその攻撃を直撃。
スーツの耐久が切れることはなかったが、コントローラーが動かなくなったというわけだ。
――こういう時こそ慎重に、だ。
周囲に目を凝らしながらも地に降り、慎重に歩く。寮で襲われているということは、どうやら敵は学園内に侵入しているらしいことは分かった。
「……」
苛立ちが募っていた。ギリと歯を食いしばる音がタケルの耳に煩く響く。
以前の自分ならあんな攻撃を直撃することなどありえなかった。この世界に来て急速に緩んでいる彼がいるのだ。
それは性格が丸くなったとか、話しやすくなったとか。そういう次元の話ではない。戦闘において最も
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