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真鉄のその艦、日の本に
第九話  叛乱への反旗
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第9話 叛乱への叛乱

遠沢が、血を流している長岡の首筋に包帯を巻く。その首筋には、神経に達するまでのインプラントがなされ、それが記憶中枢にまで介入し、記憶に歪みを生んでいたのだ。それを引き抜いた遠沢は、簡易救急セットを使って、慣れた手つきで手当てをした。長岡は力が抜けてしまっていた。何も言わない、目は何も見ていない。
無理もない、と遠沢は思う。

遠沢が福岡駐屯地を出発前、自室に戻ると、上戸から化粧品が贈り物として届いていた。中身はファンデーションだったが、そのスポンジの裏には、ICチップが仕込まれており、この建御雷の幹部達の情報と、彼らが意図するであろうところが仔細に記されていた。
幹部達は田中と長岡以外は全てが東機関で廃棄処分になりそうだった所を脱走したサイボーグ達であったが、一応長岡の情報にも目を通しておいた。

妻に先立たれてからというもの、この長岡という男はどうにも勤務に身が入らなかったようである。そこで環境を変えてやろうという当時の艦隊司令の計らいで、建御雷の初期メンバーに選ばれたのだった。勤務に身が入らなくなったのにも関わらず、却ってそのように気を効かせてもらえるあたり、この人物がそれまでに積み上げてきた人徳が伺える。そして一年間の研修のうちに、段々と状態が上向いて、現在に至っていたらしい。それはやはり、建御雷の幹部達との交流の効果だったのだ、と遠沢は思う。初心に返って、一から未知の物を苦労して仲間と学ぶ、というのが新たな生き甲斐になったのかもしれない。

その自分を助けた一年間、今日までの日々が全て欺瞞だったと知った今、長岡は空っぽになってしまった。

だから諜報部員は嫌いだ、と遠沢は思う。他人の人生を覗いてしまう。こんなもの、見たくなかった。こんな事知らなければ、彼らが“人間”だって事を、ここまで意識せずに済んだ。自分の行動の邪魔者として排除すらできたかもしれなかったのに。さっきの営倉でも、毒ガスが満ちるまで待っておけば良かったのかもしれない。自分はあの程度では死なないし、あんな貧弱な牢はいつだって脱出できる。津村と長岡にあそこで別れを告げていた方が行動はしやすかったかもしれない。でもそんな事はできなかった。他人の人生、そんなものはただの情報だって上戸局長は言うけれど、自分にはそれを割り切る事はできない。単純に、向いてないのだろう。
だからこそ、今は陸軍所属にされてるのだろうけど。

自分で体をまだ動かせない津村と、腑抜けてしまった長岡。この二人をこれからどうしようかと思った時、艦内放送が響いた。

<長岡副長、津村中尉、そして遠沢准尉。聞こえとるか?砲雷長の本木じゃ。今建御雷を預かっとる。>

このタイミングで語りかけてくるか…と遠沢は唇を噛む。

<まー、ほんで津村、すまんかったの。そこに居
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