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真鉄のその艦、日の本に
第九話  叛乱への反旗
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んな事をッ…」

突き飛ばされて床に倒れこんだ姿勢のまま、遠沢は言葉を震わせ、俯いて床を叩く。長岡は、とても意外に感じた。これまでずっと冷たく尖った雰囲気しか出してこなかった遠沢が、ここまで憤りを露わにするとは。

何で逃げなかったのか?簡単である。逃げたく無かったからだ。二神島海戦で、田中に食ってかかった時と同じように、腹の底から熱くたぎったものが湧いてきて、それが長岡を一気に突き動かした。

人を騙しておいて、説明不足だと?後になれば分かるだと?元気でな、だと?
ふざけるな。騙してた事にまず詫びやがれ。
お前を信頼して、お前の言葉に救われた気になっていた数時間前の俺は一体何だったんだよ。殺しにかかる前に、俺を慰めようとでもしやがったのか?

そういう、旧友だと思っていた男に対する怒りもあった。そして何よりも、自分にはもう何も残っていない。妻も居ない、信頼できる仲間も居ない。この上、この建御雷からも、つまりは自分の軍人としての在り方からも逃げてしまったら、自分に一体何が残るのか?何も残らない。生きた所で、ただのクソ製造機だ。何の価値もない。自分を自分たらしめてきたものから、逃げる訳にはいかない。この艦が俺の全てだ。生き甲斐だ。よくわかんねえ連中に好きにされてたまるか。こいつは俺自身なんだ!敵から逃げて平穏に、細々となんて生きていけるか!それじゃ今の日本と一緒だ!勝つか負けるかなんかはいい、戦ってやる!




「自分のした事ッ…分かってるんですかッ!?」

遠沢は痛恨の面持ちで奥歯を噛みしめる。
長岡の、失ったものへの思いは分かる。しかし、命さえあれば、それを取り戻すチャンスなんていくらでもあるだろう。なのにどうして、最後に残った最も大切なものまで失おうとするのか。その命を、私がどんな気持ちで助けたのか分かっているの?あんたを守ろうとした私の思い、何でそんなにあっさりと踏みにじれるの?

遠沢は、意を決したように立ち上がる。唇をキッと結んで、長岡を睨み、ツナギのポケットに忍ばせていた拳銃を向ける。

「足手まといです。もう、知りません。死んで下さい。」

怒りを孕んだその視線は、例え銃口とセットだろうと、長岡は不思議と怖いとは思わなかった。それよりも今までの、モノを見るような冷たい視線の方が恐ろしかった。今の遠沢は、自分と同じような気がした。感情を剥き出しにした、同じような人間だ。人間には、負けない。

「撃ってみろや」

長岡はその銃口に向かって、堂々と歩み寄っていく。これも、腹の底からの何かがそうさせた。

「確かに俺はの、お前ほど凄くはねぇしの、足手まといかもしれんの。でもな、この艦は今、俺のもんだけんな!艦長が殺されたんなら、この艦は砲雷長の本木じゃねぇ、副長のおれのもんだ!ほんでな、今の
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