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真鉄のその艦、日の本に
第八話 人でなし
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第八話 人でなし





「そして、中央司令部は何と?」
「はい、当初の予定通り呉へ、と。反体制派の武装蜂起には関係なく、です」


通信士の風呂元の報告に、田中はほっと胸を撫で下ろす。反体制派の一斉蜂起を聞いた際には、帰還を許されずに連戦となる事も覚悟した。機動甲冑の部隊を敵が備えていた場合、建御雷搭載の機甲部隊に出撃の要請が出されるとも思ったからだが、今の所、敵はそれほどの戦力は揃えてきてないようである。何もこんな時に、一斉蜂起など起こさなくても、と田中は思う。昨日から、日本が揺れている気がした。尖閣事変以来の日中両軍の本格的武力衝突に、戦後最大規模の叛乱。突然降って湧いたような戦乱の連続に現実感が湧かない。しかし、連戦にならなかったのは幸いだ。二神島海域での戦闘で、建御雷は犠牲者を大勢出した。乗員は自分も含め、疲弊している。燃料、弾薬に余分はあるが、これで連戦などと言われると厳しい。


「中央司令部から、あの特殊火砲の事について何か返答はあったか?」
「いいえ。その事については何も。」


田中はため息をつく。建御雷を叛乱軍鎮圧に充てないのは、これもあるのかもしれない。いきなり作動し、中共艦隊を消し去った、凄まじい威力の火砲。エンジンからエネルギーを直通させて放つ、恐らくあれは荷電粒子砲だった。あんなものが、乗員である自分達にも秘密で搭載され、意図せずに起動して発射されるとは…艦を造った側の神経を疑う。制御できない兵器、それも絶大な威力を持つ兵器などを前線に出す訳にはいかない。


「おう、交代するわ」
「ありがとう」


休憩に出ていた中野が、通信士席に戻ってきた。風呂元は自分のコンソールを適当に処理して、自身の休憩に立ち上がる。

「失礼します」


他の幹部に会釈して、発令所から出て行こうとするちょうどその時、風呂元のコンソールから、ジジジ…と音を立てて、紙がプリントされてきた。

「!!」


風呂元のぱっちりした目が、虚をつかれたように見開かれる。田中はたまたま、風呂元のコンソールの傍に立っていた。そのプリントアウトされた紙を、田中自ら手に取って読む。
それは中央司令部からの入電だった。


「ん……?」


その中身に、田中は違和感を覚えた。

荷電粒子重砲ハ、建御雷本来ノ武装ナリ。設計図ニモ明記サル。確認スベシ。

その文言の下に、縮小された建御雷エンジンの設計図もついていた。これがおかしかった。見覚えがない。田中は出航前に、建御雷のエンジンを何度も何度も見返していたはずだった。荷電粒子重砲の、発射機構の部分が、ごっそり記憶から抜け落ちている。目の前のこの設計図は何だ?いや、自分が見た、荷電粒子重砲の部分が抜けた設計図は何だったんだ?


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